関心をもって自ら調べるという行動をとらない限り、情報も出来事も時間に乗って流れてゆき、やがて視界から消えてゆくものだ。何事もなかったかのように。それ程現代は忙しい。しかしながら、2020年のアメリカ大統領選挙は、他国で起きた出来事ではあるが、決して無関心であってはならず、忘れてはならない重大事件である。
「アメリカ大統領選、終わるもの始まること」に書いたように、この事件は幾つかのレガシーが終焉する転換点となると思われる。そのレガシーとは、
・公正な選挙と、それを基盤とする民主主義
・公共財としての報道機関
・大統領選挙というシステムと、二大政党制
・自由と民主主義というアメリカ社会の基盤
等である。
日本人がこのように書いたら、アメリカ社会に対する侮辱となるのであろうか。書いている動機は、むしろアメリカ社会に対する失望であると同時に、期待からなのだが。
戦後75年、アメリカの迷走
戦後75年を、特に「敵対国」に対してアメリカがとった政策という視点から振り返ってみると、アメリカという国はかなり迷走してきたことが分かる。大きな事件を時系列に列挙してみると次のとおりである。
(1)第二次世界大戦は、社会主義に傾倒したルーズベルト大統領が起こした戦争だった。そして英米ソが組んで新興国ドイツと日本を叩き潰し、覇権はイギリスからアメリカに移った。
(2)終戦後間もなくして米ソが核兵器保有国となり、米ソの蜜月関係は敵対関係に代わった。米ソ冷戦の時代が始まった。
(3)ソ連を封じ込めるために、ニクソン大統領は1972年に中国と国交を結んで膨大な援助を与えた。それ以降のアメリカの関与政策が今日の中国の台頭を招いた。
(4)1991年にレーガン大統領が軍拡競争を仕掛けてソビエト連邦を崩壊に追い込んだ。この結果米国一強体制が確立し、これで民主主義が社会主義を放逐したかに見えた。
(5)1999年、中国人民解放軍の将校である、喬良と王湘穂が「21世紀の新しい戦争、超限戦」を出版した。超限戦とは「全ての境界と限度を超えた戦争」という意味である。
(6)2009年に人民解放軍の大佐である劉明福が「中国の夢」という本を出版し、その中で「100年マラソン」という言葉を使った。ハドソン研究所中国戦略センター所長のマイケル・ピルズベリーは、著書「China2049」の中で、劉明福は「アメリカの弱みを研究し、西洋が中国の本当のゲームプランに気付いたらすぐアメリカを打倒できるよう、準備しておくことが重要だ」とほのめかしていると分析している。
(7)2016年の大統領選挙で民主党と大手メディアは連携してトランプのロシアゲート疑惑を提起し、弾劾決議に持ち込む作戦を遂行した。2年間の調査の結果、疑惑は立証されなかった。
(8)2018年10月ペンス副大統領は、「中国はありとあらゆる手段を行使して、戦略的利益を推進しているが、もはや米国がそれを容認することはない」と、穏やかながら中国に対する宣戦布告ともとれる演説を行った。
(9)2020年7月ポンペオ長官は演説の中で、「アメリカの関与政策が、中国というフランケンシュタインを作ってしまった。」と断言した。そしてトランプ大統領はアメリカの覇権に公然と挑戦し始めた中国に対し、対中経済戦争を始めた。
(10)そして2020年大統領選で、反トランプで利害を共有する民主党、メディア、その他が連携して、大規模な不正を行ってトランプ大統領の再選を阻止した。背景には、アメリカ社会に浸透した中国人ネットワークによる組織的な支援に留まらず、ハンター・バイデン疑惑に象徴されるように、中国政府からの資金提供があったことが予測される。
米中にとっての転換点
この事件は、米中両国にとって歴史上重大な転換点となるに違いない。その理由は二つある。
第一は、民主党が政権を奪取するために、アメリカのレガシーとも言うべき民主主義の基盤を破壊しただけでなく、あろうことか中国の力を借りたことである。何れもが秩序を破壊する禁じ手である筈だ。
第二は、中国が長い歳月をかけて米国社会に根を張り、アメリカ政治を内部から動かす力を蓄えたことである。そして大統領選においてそれを行使した。超限戦を戦略とし、アメリカ社会内部から破壊するという意味で、トロイの木馬を戦術として「100年マラソン」が物語ではなく、着々と進行中の現実なのであることを世界に再認識させた。
ここで一つの疑問がある。民主党による不正選挙が、世界中が注目している舞台の上で堂々と実行されたにも拘らず、何故共和党はその不正行為を阻止しなかったのだろうか。国家的な陰謀、歴史的な大事件に直面して、民主主義のレガシーを守ることよりも自身の保身や、反トランプという個人的立場を優先して黙認したのだとしたら、保守系議員の責任は極めて重いという他ない。
この事件はアメリカの歴史における転換点となるだろう。何故なら、アメリカは自由と民主主義のリーダとしての役割と、反共産主義の砦の双方を放棄したことに等しいからである。この事実は、アメリカがもはや世界の警察官ではないということと同等以上に重大なことである。
一方の中国にとっても、歴史的な転換点となるだろう。何故なら、「超限戦」も「100年計画」も、本来なら本棚に飾っておくべき物語だったのが、トランプの再選を阻止するために、アメリカに対して実際に発動したからだ。バイデン大統領であるが故に、アメリカからの報復はないと高を括っているのかもしれないが、これはアメリカに対する宣戦布告に等しい。
問題はこれからバイデン政権が何をするかということと、反バイデン・反民主党のリアクションがどういう形で出てくるかだ。注意深く見守る必要がある。
日本にとって転換点
東京オリンピックが開催された1964年に中国は核兵器の保有国となった。日本は地政学的にロシア、中国、米国という軍事大国・核保有国に囲まれている。しかも朝鮮半島という厄介な隣国に接している。
戦後日本がとった戦略は、価値観を共有する世界一の軍事大国である米国と同盟関係を結び、自らは核兵器を持たず米軍基地を提供する代わりに、アメリカの傘下に入ることで国の安全を担保することだった。この戦略は見事成功し、日本は戦後の奇跡的な経済成長を実現して世界第二位の経済大国となった。
そして戦後75年が経過した2020年、アメリカが変質し、崩落が始まった。今後米国内で大統領選に対するリアクションがどういう形で現われてくるか次第だが、アメリカ社会の混乱と混迷の拡大は避けられず、内部分裂の可能性が高まっている。
このことは、日本から見れば、戦後の日米関係が「価値観を共有する同盟国」という前提のもとに成り立ってきたが、その前提が崩れつつあると認識すべき事件だということである。
何れにしても2021年以降の世界情勢は米中関係を軸として動くことは間違いない。問題は日本の立ち位置であり戦略である。「安全保障はアメリカ、経済は中国」などという都合のいいノー天気なオプションはもはやあり得ないと考えるべきだ。戦後の大前提が崩れたという認識に立って、日米関係と同時に我が国の安全保障戦略をゼロベースで見直す必要がある。
まず2020年という年が、戦後75年の歴史において、アメリカにとっても中国にとっても転換点となるとの認識に立って、これから日本の安全と繁栄をどうやって守るのか、原点に戻って、アメリカの傘も専守防衛も一旦白紙で戦略を組み立て直す覚悟が必要である。
日本の近代史を振り返ってみれば、凡そ150年前の明治維新において、そして75年前の敗戦において、日本はゼロベースでの戦略再構築を行ってきた。現代はそれらに匹敵する歴史上の転換点なのだと認識すべきではなのだと思う。
もし日本が今後とも真にアメリカの同盟国であることを目指すのであれば、日米関係をより対等な関係に転換することは当然のこととして、アメリカが本来の軌道に戻ることを同盟国として支えなければならない。
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