本項は三部作で書いた以下の続編である。独裁者は何れも経済で失敗し、相次いで退場する。本稿は独裁者が退場した後の世界に視点を移して書いたものである。
・『独裁者が変える世界(1)中国』 (https://kobosikosaho.com/world/1536/)
・『独裁者が変える世界(2)ロシア』 (https://kobosikosaho.com/world/1545/)
・『独裁者が変える世界(3)アメリカ』 (https://kobosikosaho.com/world/1552/)
「中所得国の罠」の克服に失敗して衰退する中国
中国の経済成長はコロナ・パンデミック発生と同時に終わった。パンデミックの渦中に不動産バブル崩壊が始まったが、専制主義国家ならではの監視統制強化でバブル崩壊を封じ込めて、巨額の不良債権を封印した。そして中国は今、深刻なデフレ不況に侵されている。
その間に国際情勢が大きく変動した。トランプ第二期政権がスタートして、中国に対する輸出入の制限措置を発動し、さらにウクライナ、イラク二つの戦争の影響を受けて輸出が減少し、生産過剰と消費減退が進んで経済が失速した。
中国では現在貧困者と失業者が増加し、年間500件近い反政府デモが起きていて、それをモグラ叩きのように政府が力づくで封じ込めているという。人口14億人の半数近くが貧しい生活を強いられていて、月収1000元(約2万円)ほどの低所得者が6億人もいるという。(資料1参照)また今年3月の公表によれば、学生を除く16~24歳の若年失業率が17%に達しているという。(資料2参照)
不動産不況、若年失業、消費の落ち込み、将来不安という社会情勢の中で、最近中国ではレンタル経済が急拡大しているという。不動産という成長エンジンを喪失した経済における新たな消費の受け皿としてレンタル経済が注目されていて、政府が重点的に支援・育成する「新型消費業態」として明確に位置付けたという。
以上の現状が物語ることは、習近平は経済運営に失敗したということだ。そう断言する理由は、不動産バブルが崩壊してデフレ経済に突入した日本の経験に学んだと言いながら、桁外れの不動産バブル崩壊を起こしてデフレ経済に突入することを防げなかったからだ。しかも不動産バブルを煽ったのは習近平政権だった。
中国の経済政策の歴史を振り返れば、鄧小平以降の指導者は経済成長重視の政治を行って中国を超大国に押し上げることに成功した。一方習近平は、生産者中心の経済を消費者中心の経済に転換しなかったために、「中所得国の罠」から抜け出すことができないままバブル崩壊によるデフレ経済の淵に沈みこんでいこうとしている。(資料1参照)
不動産バブルが崩壊して、中国政府の債務の増加が深刻化している。政府債務は5年間で倍増し、2025年には前年比15.1%増の100.6兆元(約2,387兆円)の大台を記録した。大規模プロジェクト建設に加え、地方政府の隠れ債務リスクを低減するために債券を大規模に発行したことが原因であるという。ちなみに2024年の政府債務/GDPは68.7%だった。(G7平均は123.2%)(資料3参照)
不動産バブル崩壊を解決できない理由は、インフラ整備を実際に担った地方政府が抱える巨額の「隠れ債務」にあると言われる。共産党政府がようやく地方政府の「隠れ債務」対策に取り組み始めた訳だが、不良債権処理の鬼門は、国家がどこまでを救済して、どこから先を潰れるに任せるかという線引きにある。中国の場合、救済の対象となるのは地方政府と国有銀行までと予想されるので、むしろ救済されない不良債権の破綻に拍車がかかる展開となるのではないだろうか。何れにしても封じ込めてきた巨額の不良債権がまな板に上ることになる。
ウクライナ戦争に押しつぶされるロシア
「ロシア版ダボス会議」と呼ばれる「サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム」が6月3日~6日に開催された。その最終日の6日未明にロシアにとって極めて屈辱的な事件が起きた。ウクライナの長距離ドローンがサンクトペテルブルグ周辺の軍事・エネルギー施設を攻撃したのだ。
集英社オンラインは次のように報じている。「黒煙が上がり、プーチンが築き上げてきた虚構が崩れ落ちた。クレムリンがグローバル・サウスに向けてロシアの健在を誇示する筈だった舞台で、ウクライナの長距離ドローンが市内の石油ターミナルとクロンシュタット海軍基地を直撃した。約130ヵ国から2万人が集まる祝祭の最中に、ロシアは自国第二の都市すら守れないという事実を世界に向けて生中継してしまった。」(資料4参照)
ウクライナの情報機関は、この時のサンクトペテルブルク近郊のバルチック艦隊の弾薬庫に対する攻撃で、ロシアの6万トンを超える弾薬を破壊したと報告している。(資料5参照)
またウクライナ軍のシルスキー総司令官によれば、今年に入って奪還した領土は合計で600km2に上るという。(産経、6/30)
最近の近況、特にロシア軍の死者数、ウクライナによる領土の奪回、ウクライナによるロシア領内に対する攻撃、ロシア政権内部の混乱などの事実は、ウクライナ戦争がはっきりとウクライナ優勢に転じたことを物語っている。
ウクライナ戦争における両軍の優劣を逆転させた大きな要因は、正に軍事革命と呼ぶに相応しい多様なドローンをウクライナ軍が次々に開発して投入したことにある。AIを登載したドローン、光ファイバーを利用した電波妨害を受けないドローン、赤外線ドローン、スターリンク衛星を利用したドローンのネットワーク運用、衛星画像とドローン画像を統合し相関するAIなどだ。軍事大国ロシアが保有する陸海空の高価な兵器が、商用の安価なドローンに遠距離から攻撃されて次々に破壊された現実が「ドローンとAIの軍事革命」を如実に物語っている。
最近ウクライナ軍はドローンを以下の三つの目的に集中的に投入している。
①前線に展開するロシア軍の兵站ルート(補給基地・道路・鉄道など)の破壊
②モスクワを含むロシア大都市の石油関連施設への長距離ドローンによる攻撃
③クリミア半島を孤立させる橋・原油関連施設への攻撃
集英社オンラインの記事は次のように述べて資料を結んでいる。「戦場で勝てず、身内を叩き、経済を痩せさせ、それでも なお誇大妄想だけが膨らんでいく。サンクトペテルブルグの黒煙はその姿そのものだった。プーチンが『戦争は終りに近づいている』と語るとき、自分の崩壊が近づいていることにプーチンただ一人が気付いていない。」
情勢の悪化を受けて、プレジデント・オンラインはプーチンが停戦を意識し始めたと報じている。6月13日にプーチン大統領は政権中枢の非公開会議の場で、「ロシアが支配する占領地をウクライナがロシア領と公式に承認するなら、現在の前線を国境として停戦に応じる用意がある」という新提案を提示したという。
プーチンはウクライナへの軍事侵攻を行った2022年2月には、戦争目的として、ウクライナの中立化、非ナチ化(つまり政権交代)、非武装化、南東部4州のロシア併合等を掲げていたことからすれば、大幅な後退である。
開戦から4年4ヶ月が経過して、ウクライナ戦争は第一次世界大戦よりも長期化した。4月のロシアの世論調査によれば、停戦を支持するという回答が62%、戦争継続の支持は27%だったという。戦争経済に対し国民の我慢が限界に近づいているようだ。
ジャーナリストで拓殖大学海外事情研究所客員教授の名越健郎氏は、政権寄りのワシリー・カリン、モスクワ高等経済学院教授の論文を紹介している。それによれば、「ウクライナは今後長期にわたり反露・親欧米の国であり続け、キエフへの親露派政権樹立というプーチン政権の目標は不可能だとして早期停戦を求めた。政権内の経済テクノクラートや政権に近いオリガルヒの間でも、早期停戦論が台頭していると伝えられる。プーチン自身も公の場では徹底抗戦の構えを崩していないが、本音では早期停戦を志向している形跡がある。」(資料6参照)
実際に6月14日にプーチンはG7に臨むトランプと電話協議を行い、停戦仲介を改めて求めたという。
最近ではウクライナ軍によるモスクワ等のエネルギー施設への攻撃が活発化していて、ロシア国内ではガソリンの高騰と不足が顕在化しているという。笹川平和財団上席研究員の畔蒜(あびる)泰助氏によれば、プーチン政権は既に戦争終結の準備に着手していて、戦後を睨んだ中国からの脱従属と日本との関係修復を模索しているという。(資料7参照)
ウクライナ情勢がロシア劣勢に反転したことは、トランプ大統領も認めたという。G7サミットでホストを務めたマクロン大統領が、TVのインタビューに応じる形でG7の後日談を公表している。それによると、「トランプ氏はウクライナが敗北すると信じていたが、現在は考えを改めている。G7サミットがトランプ氏の認識を変える転換点になった。今後トランプ氏が対露圧力を強めるとの見通しを示した。」という。(産経、6/27)
一体プーチンはウクライナ戦争によって何を得て何を失ったのだろうか?戦争終結によって、仮にウクライナ領土の一部を獲得できたとしても、欧州との協力関係が破壊され、北欧諸国はNATO加盟を果たし、ロシア衛星国だったアルメニアが離脱し、シリアやイランなど中東における影響力が消失し、国際社会における地位が弱体化した等、失ったものは比較できない程に大きいことが明らかだ。しかも戦争がさらに長期化すればするほど、状況はさらに悪化してゆくことになる。結局ウクライナへの軍事侵攻は大失敗だったと歴史に記録されるだろう。政権の終焉が近づいていることは間違いない。
外交で失敗したアメリカ
トランプ大統領は外交で大きく躓いている。もし現時点で業績を評価しようと思えば、大統領就任直後に発表した『常識の革命』で掲げた目標が達成できているかどうかを見ればいい。トランプは大統領就任式の演説で、「アメリカの黄金時代が今から始まる」といい、続けて「常識の革命(Revolution of Commonsense)が始まる」と述べている。施政方針演説については「ウクライナ和平後の世界」に分析記事を掲載したのでそちらを参照願いたい。
トランプ第二期政権の業績を評価するならば、就任直後から「リベラル全体主義勢力」排除に精力的に取り組んだ初期と、強引な外交政策を次々に展開したその後とで明らかに明暗が分かれている。
まずトランプが公約として最初に取り組んだのは、国内外の「リベラル全体主義」を徹底的に排除することだった。国内では、就任直後からリベラル全体主義やDEI(多様性、公平性、包摂性)というイデオロギーの弱体化と不法移民の追放に取り組み、EV義務化の撤廃、DEI義務化の廃止など、矢継ぎ早で実行していった。
国外に対しては、就任後43日間で、グリーン詐欺の停止、パリ協定からの離脱、WHOと国連人権委員会からの脱退を実行した。さらに2025年2月14日にミュンヘンで開催された安全保障会議に参加したヴァンス副大統領は、リベラル全体主義化した欧州を徹底的に批判する演説を行った。続いてEUを訪問したヘグセス国防長官は防衛費をGDP比2%から5%へ引き上げてウクライナを支援するよう要求した一方で、アメリカはウクライナ支援から手を引くことを示唆した。
ここまでは「エンジン全開、向かうところ敵なし」で疾走していたのだが、トランプは外交の本丸で躓いた。鳴り物入りで始めた相互関税措置も、圧倒的な軍事力を行使したイラン戦争も、大失敗に終わった。相互関税措置については連邦最高裁から違憲判決を受けた。イラン戦争については、エネルギーの大動脈であるホルムズ海峡封鎖というカードを切ったイランが石油資源の物流を混乱させて、短期決着を図りたいアメリカに対し優位のポジションを確保した。
TBSテレビのアナウンサーで報道局ニューセンター記者の伊藤隆太氏は、プレジデント・オンラインの記事で、イラン戦争におけるトランプ政権の失敗について本質原因を分析している。要点を以下に紹介する。詳細は原文を参照願いたい。(資料8参照)
①危険な敵と、地域の秩序ごと破壊してでも対処すべき敵を混同している
②軍事的成功と政治的成功を混同している
③軍事力を使って核開発を実行阻止しようとしている
④味方(即ち、イスラエル)に引きずられている
⑤大義に酔って会計を壊している(立派な目的と実行可能な戦略は別物)
アメリカとイランは6月19日にスイスで14項目からなる覚書に署名した。第3条にはこう書かれている。「イラン及び米国は、相互の同意により延長可能な最長60日以内に交渉を行い、最終合意に達することを約束する。」
この覚書について、元外交官の宮家邦彦氏は産経新聞で、「かくも稚拙な米外交を見たのは初めてだ」と前置きして、次のように合意の危うさについて論評している。要点を以下に紹介する。(産経、6/25)
第一に、「体制崩壊の危機に瀕したイランは逆に核兵器取得に向けて本気で動く可能性が高い。核を持たず崩壊したイラク・フセイン政権と、核武装で生き残った北朝鮮をみればそれも当然だろう。」
第二に、ホルムズ海峡封鎖が予想以上に容易であることを知ったイランが核兵器に匹敵する抑止力を放棄する筈はない。
第三に、イランが核兵器とホルムズ海峡を獲得すれば、中東湾岸地域の戦略的パワーバランスはイラン側に傾く。それを回避すべく、何れ米国とイスラエルは動く(ズバリ言えば、再び軍事力を行使する)だろう。
誠にこのとおりという他ない。核兵器の保有阻止とホルムズ海峡の自由航行という二つの命題は、双方にとって絶対に譲れない要件である以上、60日間交渉を重ねてみても合意には至らない可能性が高い。
このように現時点で評価するならば、停戦合意はおろかイラン攻撃に踏み切った判断も、アメリカの全面的失敗として歴史に記録されることになるだろう。ディールの達人を自認するトランプだったが、中間選挙を控えて停戦合意を急ぎたいのはアメリカの方で、幾ら時間をかけても構わないと開き直るイランが交渉のイニシアティブを握る展開となったということだ。結局トランプは、核・ミサイル開発の阻止も、ホルムズ海峡の自由航行の何れも明言できない覚書に署名するところまで追い詰められたという訳だ。
アメリカのシンクタンクである外交問題評議会(CFR)のマックス・ブート上席研究員は、「覚書の内容は米国が対イラン軍事作戦で支払った代償に見合うものではなかった。イランによる海峡封鎖が世界的なエネルギー危機を引き起こしたことで、トランプ大統領はイラン革命体制の転換や核・ミサイル計画の阻止といった目標を達成することなく、戦闘を終結せざるを得なくなった。」と厳しい評価を表明している。(産経、6/29)
武器化という禁じ手
プーチンとトランプは互いに安保理常任理事国の地位にありながら無用で無益な戦争を起こした。またトランプは関税を、習近平は希少金属を武器化して国際社会に対し行使した。これら三人の独裁者がとった極めて乱暴な行動は、戦後の国際秩序を瓦解させただけでなく、グローバルな貿易体制を破壊し、エネルギーと資源の物流を大混乱させてしまった。
イランによるホルムズ海峡封鎖を含めて、そもそも「公共財の武器化」は諸刃の刃である。短期的には利益をもたらすとしても、長期的には失うものの方が遥かに大きいことは自明である。世界経済を大混乱させた結果、やがてブーメランのように自国の経済及び安全保障を脅かす結果を招くに違いない。何故ならそれが強力な武器であるほど、相手国は戦略的な対策を講じるからだ。結局武器化というカードは、グローバルな貿易体制を破壊し、自身の未来の優位性を自ら破壊する行為に他ならない。
前段で述べたように、独裁者三人は何れも経済運営に失敗して間もなく退場してゆく結末を迎えるだろう。独裁者が失政の責任をとる形で退場するとき、専制主義国では何らかのクーデターが起きて失脚する可能性が高い。
ロシアの場合には、プーチンの失敗の根源がウクライナへの武力侵攻であったから、プーチン退場という衝撃波はロシア連邦を構成する国々に伝搬するだろう。ロシア圏からの離脱を含む、プーチンからすれば悪夢としか言いようがない事態へと発展する可能性がある。
中国の場合には、習近平の失政は、「中所得国の罠」の克服に失敗したことに帰着する。もし退場となれば、それと前後して不動産バブルの不良債権の全容が明らかになるだろう。その場合、国家による救済は地方政府や国有銀行などに限定され、それ以外は切り捨てられるだろうから、この時点でバブル崩壊の大津波が起きて社会全体を襲うだろう。
アメリカの場合には、トランプの失敗はMAGAの公約違反として糾弾されるだろう。イスラエルの誘いに乗ってイラン戦争を始めたばかりにMAGAどころではなくなった責任が、まず中間選挙で問われることになる。
但しアメリカの場合ここでは終わらない。MAGAの頓挫が明白になれば、それと連動するように株価が暴落する恐れが高い。現在アメリカの株価も日本の株価も過去最高値を更新している。近年の株価はM7(Magnificent Seven)に代表されるテック企業がぐいぐいと株式総額を引き上げる形で高騰を続けてきたが、最近ではAIと半導体企業が牽引役を担っている。このバブルがまもなく崩壊するだろう。
バブル崩壊の再来
應義塾大学大学院教授で投資家の小幡績氏が、バブルについて興味深い洞察を披露している。それによるとバブルには四つの次元があり、下層から順に、株式バブルなど「特定の資産セクターでのバブル」、他の金融リスク資産もバブルとなる「金融バブル」、半導体ブームやAIブームなどの「実物経済のバブル」、そしてバブルが社会にまで及ぶ「社会のバブル」であるという。1980年代の日本のバブルは史上初めての社会バブルだった。そして現在のアメリカで進行中のバブルも社会バブルであるという。(資料9参照)
日本でも日経平均株価が72,000円を超えたが、誰が見てもバブル崩壊前夜という以外に形容できない状況である。
難しい解説は専門家にお任せするとして、アメリカの株価が如何にバブルなのかを説明しよう。下表はアメリカの株式総額とGDP比の推移を示したものである。数値は何れも年末の値である。代表的なポイントとして、2008年→(14年後)→2022年→(3年後)→2025年の三点を抽出してある。表から明らかなように、株式総額は2008年から14年かけて約3.5倍になり、更に3年かけてその約1.7倍に膨張している。

株式総額/GDP比は更に象徴的である。2008年に株式総額はGDPの78.5%だったが、2022年にはGDPの1.55倍になり、2025年には3.13倍に膨れ上がっている。
GDPが実物経済の規模を表す指標であるのに対して、株式総額は投資家の期待値を反映する指標であると捉えれば、「実体経済規模に対する投資家の期待」の比率が、2008年から14年かけて2倍に膨らんだのに対して、そこから更に2倍になるまでに要した年数は僅か3年だった。最近の株式総額の膨張が正に指数関数的であることが一目瞭然である。これをバブルと言わずして何と表現すればいいのだろうか?
小幡績氏はさらに続けてこう断言する。「バブル、資本主義、社会の三つが現在同時に崩壊しつつある。資本主義は2030年頃から徐々に終わりを見せ始め、2050年には現在の社会主義のように過去のものとして認識されるだろう。」
「全てテックジャイアント優先、巨大企業のビジネス優先で何が悪い、むしろそれが経済にとって一番良いという経営者たちの傲慢さが世界を破綻に追い込んでいる。その破綻の時の爆発力を高めるマグマが今や急激に溜まっている。」
「中国は崩壊が既に進行中で、アメリカが崩れた時に、世界経済のショックを吸収する役割を果たせる状況ではない。それどころか西側への輸出が減れば、中国経済のバブル崩壊が決定的になり、(天安門事件のような)社会的な大変革がもう一度起こらざるを得ない状況に至る。つまり米中のバブルは同時に崩壊し、さらに両方の社会構造までもが同時に窮地に陥る。」(資料9参照)
アメリカの「社会バブル」が崩壊するとすれば、それは一体どういう事態を招くだろうか?予測できないが一つ確かなことは、小幡績氏がいう次元としても、また崩壊の規模においても、次に起きるバブル崩壊は、過去にない破壊的レベルになる可能性が高いということだ。金融バブル崩壊に留まるか、それとも米国債にまで及ぶかは分からないが、何れにしても資本主義システムを揺るがす事態にまで及ぶ可能性がある。
一つの光明がある。昨年6月18日に日本製鉄がUSスチールを買収した。最終的にトランプ大統領の承認を得て、アメリカ政府が拒否権を行使できる「黄金株」を獲得して買収は完了した。それから1年が経ち、報道によれば日本製鉄はアメリカ側関係者とも建設的な関係を築くことに成功し、USスチールに設備の改修や生産力を増強する投資を行い、人員を派遣して260項目の改善策を順次実行しているという。(産経、6/18)
最近のバブルは、モノづくりから乖離した金融バブルの性格が強い。それに対して日本製鉄によるUSスチール買収は、鉄鋼業というモノづくりを象徴する基盤産業の復活を目指すものである。AIを中心とした金融バブルが崩壊して、モノづくり産業が復活するとなれば、しかもそれが日米合作で行われるということは、バブル崩壊後の一筋の光明となるかもしれない。
そして風景は一変しパラダイムが変わる
国際秩序が崩壊している状況下でバブル崩壊という経済有事が起きることになる。小幡績氏が予想するように、米中両国は現在経済有事前夜にあると考えておいた方がいい。そしてどちらが先に起きても両者は必ず連動するだろう。
もしアメリカのバブルが崩壊すれば、間違いなく日本の株価に連鎖する。そしてもし中国で経済有事が発生すれば、その衝撃波は隣国である日本に相当の影響をもたらすだろう。習近平が日本への観光旅行に待ったをかけていると聞くが、ひとたび経済有事が発生すれば、観光客に代わり移民・難民が大挙して押し寄せる事態となるだろう。
これから起きる事態を予測することは困難だが、有事発生に対する心構えを用意しておくことが重要である。注目される二つの資料を紹介しよう。
一つは、ブルームバーグが公開した『日本はミドルパワーの超大国』と題した記事である。注目されるのは、「日本は明治維新を起点として危機に臨むたびに自らを再構築してきた」という指摘である。即ち、明治維新~日露戦争期、第1次世界大戦~敗戦、経済復興~現在の三段階を経て、今「国際秩序の崩壊」という危機に直面しているという俯瞰である。
ブルームバーグは続ける。「ウクライナとイラン、二つの戦争が起きて、欧州と日本は試練の転換点に立っている。共にアメリカからの自立が不可避だが、アメリカとの関係において欧州と日本は別の方向に歩もうとしている。短期的には日本は戦後政治からの脱皮を進めるなど野心的に行動しており、地政学的な存感を高めている。」今回の危機においても日本は危機を乗り越えるだろうという期待である。
一方で、「日本は長期的には人口減少という大きな課題に直面している。」と結んでいる。(資料10参照)期待と同時に、人口減少という難題をどう克服するか、お手並み拝見という訳だ。
もう一つは、『2030年来るべき世界』という書籍に収録されている、エマニュエル・トッド氏が昨年10月25日に行った講演での発言である。冒頭でトッド氏はこう述べている。「日本の歴史の最も本質的な部分は西洋的ではない。私が考えるのは、自分がお手本としてきた国々、つまり西洋の国々が崩壊した時に、日本のような国では何が起きるのだろうかということだ。」
そして「欧州が没落している。アメリカは覇権の衰退過程にある。日本が戦後政治に終止符を打ち、戦後80年の大転換を果たそうと思うなら、露中米欧4ヵ国との関係を再構築する必要がある。」と述べている。
さらに、「日本の真っ当なナショナリズムの根本的な命題はアメリカから自立することだ。米中の二者択一を迫る米中から自立することこそ日本が勝負すべきゲームの正体である。没落する欧米と距離をとって、日本文明の原点に戻り、文明を強みに換えるべき時だ。」と指摘している。(資料11参照)トッド氏も日本に対する期待と、お手並み拝見の姿勢を披露している。
まとめ
以上述べてきたように、トランプ大統領の再登板、プーチンによるウクライナへの軍事侵攻を転換点として、今ではロシア、アメリカ、そして中国の衰退が顕著になってきた。さらにトッド氏が最近言及してきたように、これに欧州の没落が加わっている。これらの情勢を俯瞰すれば、大国が総崩れの様相を呈していて、国際社会は歴史的な転換点に直面していることが分かる。単に安全保障と経済において大戦後の秩序が崩壊しつつあるというレベルを超えて、資本主義と民主主義、専制主義という社会システムの再定義・再構築が必要となるだろう。
ブルームバーグが指摘するように、現在の国際情勢は歴史に刻まれた幾つかの転換点に匹敵するものである。それは日本にとっても、明治維新以降の近代史における新たな大転換点でもある。その変化の中で、日本は「他の主要国と比べて衰退が顕著ではない」という意味で、比較優位のポジションを得ている。
振り返ってみれば、日本は戦後政治からの脱却という歴史的命題に、自らの意思で挑戦しないまま戦後80年を迎えた。そして今、戦後政治の大転換という重い命題に制約なしに大胆に取り組める絶好の機会が生まれつつある。しかもそれは高市政権誕生とシンクロナイズしている。国内外で一気に風向きが一変したのである。日本はアメリカからの自立を進めつつ、日本固有の文明を価値判断の基準として、混乱と混迷の渦中にある国際秩序の中で、独自の進路に意思と勇気をもって舵を切る時機を迎えている。
参照資料:
1.「中国絶望経済14億人の断末魔」、ピンズバNews、6/9
2.「中国の若者がモノを買えない深刻すぎる事情」ダイヤモンド・オンライン、6/21
3.「中国、ついに借金2400兆円時代へ」、江南タイムズ、6/16
4.「プーチンの崩壊近づく・・・」、集英社オンライン6/12
5.「プーチン軍、弾薬6万トンを丸ごと失ったか・・・」、江南タイムズ、6/26
6.「もう戦争を続けられない本音が透ける・・・」、名越健郎、プレジデント・オンライン6/19
7.「実は今ロシアでウクライナ戦争終戦に向けたシナリオ作りが始まっている」、現代ビジネス6/11
8.「トランプはもう負けている」、伊藤隆太、プレジデント・オンライン、5/21
9.「トランプの終わりと米国社会バブルの終焉」、小幡績、東洋経済オンライン、4/4
10.「日本はミドルパワーの超大国、危険な時代の主役・・・」、ブルームバーグ、6/11
11.「2030来るべき世界」、朝日新聞出版、第1版3/30








