宇宙のはじまり

宇宙は真空から始まった

 宇宙に始まりがあったという発見は、ハッブルが1929年に発見した「遠方の銀河はその距離に比例した速度で遠ざかっている」という法則から導き出された。

 現在までの観測で、宇宙の年齢は約138億歳であることが明らかになっている。実際に134億年前の最古の銀河が発見されている。また、宇宙の始まりから38万年後に放出された光が、現在「宇宙マイクロ波背景放射」として観測されている。

 インフレーション理論は、佐藤勝彦が1981年に提唱したもので、「宇宙の始まり直後に、宇宙空間が急激に膨張した」という仮説である。それによると、(1/1兆/1兆/1兆)秒という瞬間に、宇宙は光速の約60倍のスピードで、(1兆×1兆×100)倍以上に膨張したという。

 現在宇宙は膨張している。それを起こしている力の正体はダークエネルギーであると言われているが、未だ観測されていない。驚くべきは、インフレーションを起こしたのは、現在宇宙を膨張させているエネルギーより100桁以上も大きい「真空のエネルギー」であるということだ。

 インフレーション終了後に、宇宙は膨張による冷却効果で温度は絶対零度(-273度)にまで瞬間冷却したという。

ビッグバン

 そして宇宙の始まりから約1秒後にビッグバンが起こった。インフレーションを起こした「真空のエネルギー」が膨大な熱を発生して、宇宙の温度は(10億×10億×10億)度もの超高温になったという。これがビッグバンが起こった原因である。

 宇宙の初期に起こった出来事は、何れも桁外れのスケールで起きた、容易には理解しがたい仮説なので、これ以上専門家の領域に立ち入ることはやめておきたい。

 ビッグバンによる膨張の結果、宇宙の温度は3分後には10億度に下がったという。ここで大事なことは、この過程で現在宇宙にある全ての物質の材料が生成されたことにある。物質の生成過程は概ね次のとおりである。

 はじめに電子やクォーク、ニュートリノ等の素粒子が生成された。次の段階で素粒子どうしが結合して陽子や中性子が合成された。更に次の段階では複数の陽子や中性子が結合して、水素やヘリウムが合成された。

 物質生成の過程で自由電子がどんどん使用されて消滅し、38万年後に「晴れ上がり」と呼ばれる出来事が起こった。これは光や電磁波が自由電子に邪魔されずに自由に空間を伝搬できるようになった状態をいう。こうして物質が支配する宇宙が出来上がった。

 NASAが2001年に打ち上げた探査機WMAP(ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機、正確には太陽軌道を回る人工惑星)がこの「晴れ上がり」の時の光を「宇宙マイクロ波背景放射」として観測した。宇宙の始まりから38万年後に発せられた光は、その後の宇宙膨張によって波長が引き延ばされてマイクロ波となった。WMAPは宇宙の全ての方向から到来するこのマイクロ波を精密に観測して、宇宙は一様で等方性があり、平坦であることを実測によって証明した。宇宙の始まりはこうして観測によって確認されたのだった。

物質の創造

 宇宙で最初の星が作られたのは、宇宙の始まりから3億年が経過した頃である。宇宙の物質の分布に粗密があると、重力が働いて物質が次第に集積して物質の塊ができ、それが徐々に成長していったと予測されるが、この時期の星の生成過程はよく分かっていない。何故なら、そのころの痕跡を捉えようとすれば、地球からみて宇宙の果てに近い超遠距離の、それも微弱な電磁波を観測しなければならないからだ。

 地球にある物質や、我々生命体の体を作っている物質はそもそも何処から来たのだろうか。

 ヘリウム(原子番号2)よりも重い元素は星の内部で作られ、鉄(原子番号26)よりも重い元素は超新星爆発など超高温超高圧の中で作られたことが分かっている。星の寿命が尽きるときに星を形成していた物質は宇宙にばら撒かれて、それを材料として次の世代の天体が誕生する。この繰り返しが宇宙での「物質循環」となっている。

宇宙の終わり

 宇宙に始まりがあったのなら終わりもあることになる。ただし宇宙は無限に膨張を続けるのか、何処かで収束に転じるのかは未だ分かっていない。それを予測するためには、存在が予測されているが正体不明のダークエネルギーやダークマター(暗黒物質)を解明する必要があるという。

 太陽の寿命はだいたい100億年と見積もられているので、残りの寿命は凡そ50億年である。太陽内部では水素を燃料とする核融合反応が起きていて、水素を使い果たすまでの残り時間が寿命となる。より内部の水素を燃やすようになると太陽は膨張してゆき、燃料を使い果たす頃には、現在の地球の軌道まで(約200倍)膨張して赤色巨星となると言われている。この通りに進行すると、地球は太陽に取り込まれて消滅するか、取り込まれなくても灼熱地獄となる。

 太陽は1億年に1%ずつ明るくなっていて、5億年くらい経つと、地球の表面は太陽に熱せられて海水が蒸発する温度になるという予測もある。

 何れにしても、太陽が膨張し明るさを増してゆく過程で、地球は徐々に生物が住めない惑星になる。地球という惑星の宿命である。

 真空から物質が生まれ、星が生まれ、そして地球が生まれた。そこに生物が生まれ進化して、サピエンスが誕生した。サピエンスは科学を発展させて、宇宙の仕組みを次々に解明してきたが、生物とサピエンスが蓄積してきたレガーの全てがやがて消滅する。これは宇宙船地球号の乗組員の宿命である。 宝島社が2018年に発刊した「宇宙図」という雑誌は、こう結んでいる。「あなたを構成していた元素は、たとえ地球が失われても少しも損なわれることなく、宇宙に還り、再び新たな星々の原料となってゆく。・・・そして、宇宙を流転する物質の全ては、さかのぼれば、この宇宙最初の3分間に生み出された物質へと行きつく。」と。

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