世界の近代史を概観する
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから1年が経過した。20世紀の戦争と異なり、世界の監視網の中で行われた戦争であり、1年の間に膨大な情報がもたらされた。この結果、ウクライナ戦争が我々現代人に投げかけてきたメッセージは1年前とかなり様変わりしてきた。重要と思われる論点が二つある。
第一は、「戦争の世紀」と言われた20世紀までに終わったと信じていた、砲弾が飛び交う戦争が再現されたことである。対テロ戦やゲリラ戦と異なり、国と国との戦争がライブで報道されたこと自体が驚愕であった。一方で、兵器の進歩は目覚ましく、衛星を使った情報戦争、メディアが繰り広げたプロパガンダ戦争、ドローン兵器によるハイテク戦闘が、20世紀の戦争の常識と概念を根底から変えたことを目の当たりにした。
第二は、1年前の認識では一方的に軍事力を行使したロシアに100%の責任と非があると思い込んでいたものが、欧州の歴史に綴られた大きな物語の一幕としてウクライナ戦争を俯瞰すると、話はそう単純ではないことに気付かされたことである。
ウクライナ戦争は今後どうなるのだろうか。ロシア、ウクライナ両国の継戦能力、アメリカとNATOによるウクライナ支援の継続性、ロシア経済の経済・金融制裁下での耐力は、今後どう変化してゆくだろうか。両国が受容できる停戦合意は存在するのだろうか。もしロシアの敗北が濃厚になればロシアは核兵器使用に踏み切るのだろうか。また戦争が拡大して第三次世界大戦(WW3)に拡大する可能性はどれほど高いのだろうか。ウクライナ戦争が世界経済とドル基軸通貨体制に与える影響はどこまで進むのだろうか。さらにはウクライナ戦争が根底から破壊してしまった世界秩序の再構築はどのように進むだろうか。
これら多くの疑問に対して、現時点で確かなことは、今後の展望は容易には予測できないということだ。
ウクライナ戦争の終結とその後の世界について考えるためには、複数の視点から多面的に、かつ歴史を踏まえた時間軸の変化として捉えることが最低限必要である。私は歴史家ではないことをお断りした上で、考察を加えてみようと思う。『ウクライナ戦争の深層』と題した記事を三部作で書くこととする。第1部では、ウクライナ戦争に至る因果関係を歴史から概観し、第2部ではプーチン大統領の視点・論点に立って考え、それを踏まえて第3部でウクライナ戦争の深層について考えるというステップで書くこととする。
第1部では、近代以降の人類史を、欧州を中心に時間軸と空間軸の上に巨視的にプロットしてみる。その上で歴史が物語っていることを要約する。
本記事を書くにあたり、馬渕睦夫氏と渡辺惣樹氏共著による『謀略と捏造の200年戦争』(徳間書店)を参照した。
近代史を大きく俯瞰するため、まず時間軸では18世紀後半に起きたアメリカの独立戦争とフランス革命以降の重大事件に注目し、空間軸では近代史を綴ってきた主要6か国と1民族に注目することとする。6ヵ国とは、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、ロシアと日本である。
欧州が舞台であることと、ウクライナ戦争への関与の大きさと深さを考えれば、日本を入れるのは適切ではないのだが、日露戦争と第二次世界大戦の当事国であったことと、ウクライナ戦争後の展開に否応なしに、かつ相当な危機を伴って巻き込まれてゆくことを考慮して、敢えて日本を入れて日本はどう行動すべきなのかを考える一助としたい。1民族は言うまでもなくユダヤである。
近代国家の起源
近代国家の基本的形態として、欧米と日本に定着しているのは自由・民主主義と資本主義である。その起源はアメリカ独立戦争とフランス革命という、二つの市民革命(ブルジョア革命)に遡る。図1はアメリカ独立戦争から南北戦争までの重大事件をプロットしたものである。
世界の近代史を振り返ると、戦争や革命等の重大事件の重要アクターとしてユダヤ人の存在があった。そして18世紀末にナポレオンが欧州各地にあったユダヤ人居住地ゲットー(Ghetto)に閉じ込められていたユダヤ人を解放したことが、彼らが世界の重大事件に関与するようになる起点となった。
ゲットーの開放以降、才覚あるユダヤの金融資本家たちが欧州世界で活発な活動を始めた。その代表的存在がロスチャイルド(Rothschild)家である。マイアー・ロートシルト(Mayer Rothschild)はフランクフルトのゲットー出身のユダヤ人で、1760年に銀行業を確立した。その後5人の息子がフランクフルト、ウィーン、パリ、ロンドン、ナポリで銀行業を始めた。
戦争や革命では当事者の双方が莫大な資金と武器を必要とする。ユダヤ人の金融資本家がそれを提供し、金利で儲ける活動を本格化させたのはフランス革命以降のことだった。彼らはナポレオン戦争、ウィーン会議、南北戦争、ロシア革命等の国際的事件で暗躍し、巨額の富を築き強大な力を獲得していった。
ウィーン会議はフランス革命とナポレオン戦争で混乱した欧州の秩序を取り戻すために開かれた調停の場だった。ここで一つ重要なことは、ウィーン会議直後に、国際紛争が起きた時に政治的に圏外に立つために、スイスが永世中立国という選択をしたことだ。これは戦争が起きても安心して金融業を続ける拠点として好都合であり、金融資本家が活動の場として作ったことに注目する必要がある。
1848年にはマルクスが『共産党宣言』を発表した。マルクスが目指したのはプロレタリア革命(資本主義を社会主義に転換する革命)であり、マルクスが提唱した共産主義を忠実に実現した国家は未だに登場していないものの、共産主義のイデオロギーが20世紀以降の世界史に大きな影響を与えたことは言うまでもない。
アメリカ南北戦争において英仏両国は南部に加担し、ロシアは北部のリンカーンを支援した。ロスチャイルドはリンカーンに資金提供を申し出たが、リンカーンはそれを断り、政府の信用をもとに独自の紙幣を発行して危機を乗り切り、南北戦争に勝利した。そしてリンカーンは暗殺された。天下分け目の戦争が起きるとき、政治の裏舞台でロスチャイルド等の金融資本家の暗躍があったことは事実であり、それは現代においても変わっていない。
欧州各国において銀行業として成功を収めた金融資本家が次に画策したのは、国立ではない民間銀行を株主とする中央銀行の設立だった。設立の狙いは、通貨発行権を持ち金融政策を担う中央銀行をコントロールすることで巨額の利益を得ることにあった。
1860年代後半~70年代初頭は第二次産業革命と呼ばれ、ドイツ、フランス、アメリカの工業力が飛躍的に向上した時期である。中でもドイツの興隆は目覚ましく、1870年に普仏戦争でナポレオン三世率いるフランスを破ってパリに入城を果たしている。1871年にはヴィルヘルム1世がドイツ帝国を創設した。
戦争の世紀の始まり
図2は20世紀初めに起きた重大事件をプロットしたものである。
1902年に締結された日英同盟が、主に資金と物資と情報を獲得する上で、日露戦争の勝利に大きな貢献をしたことは事実である。一方、これを英国の視点から眺めると別の思惑が見えてくる。即ち、日英同盟はイギリスに代わって日本がロシアと戦う代理戦争のための布石であり、同時に欧州一の工業国として台頭したドイツに対し包囲網を形成する目論見があったことだ。日本は欧州に位置しないものの、欧州での戦争が世界レベルに拡大してゆく過程で、イギリスの戦略に組み込まれていったのだった。
日本は日露戦争の資金として、ロスチャイルドやニューヨークの金融資本家から総額13億円(一般歳入の5倍)を調達している。ちなみに日露戦争の戦費総額は18.3億円(一般歳入の7倍)だった。
1913年に設立されたアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、国立の日本銀行と異なり、ロスチャイルド、ロックフェラー他の金融資本家が設立した民間による中央銀行である。1930年にはスイスに国際決済銀行(BIS)が設置されており、金融資本家は世界規模で着実に活動の基盤を強化していったことが分かる。
欧州の歴史は、長期に及ぶフランスとドイツによる覇権争いの歴史だった。第一次世界大戦(WW1)では、本来オーストリアとセルビア間の局地戦争だったものが、戦争直前にオーストリアはドイツの、セルビアはロシアの支援を取り付けていた。さらに当時ロシアとフランスは良好な関係にあり、欧州最強となったドイツに対し両国は早い時点から戦争を意図していた。このような背景の中で、僅か数日間で戦線が拡大し欧州大戦に発展したのだった。
そしてドイツはシーパワーのイギリスと対峙することとなった。イギリスはフランス、ロシア、アメリカ、日本と個別の「協商」や「同盟」関係を結んでドイツ包囲網を形成し、WW1でドイツを破った。日英同盟はこの一環だったのである。
WW1でも金融資本家が暗躍した。ロスチャイルドは英国の参戦を阻止しようとし、ロックフェラー等ニューヨークの金融資本家はアメリカを参戦させるべくウィルソン大統領の側近たちと共謀した。
ロシア革命はロシアの少数民族だったユダヤ人を開放するために、国外に亡命していたユダヤ人がロンドンやニューヨークのユダヤ系金融資本家の支援を受けて起こしたユダヤ革命だった。マルクスが目指したプロレタリア革命とは無関係の権力闘争だった。レーニンは大戦中に起きたロシア革命に成功したものの、ドイツとの戦争では敗北した。ドイツも米軍が本格的に参戦した結果、敗北した。そして共産主義者が扇動したドイツ革命が起きドイツ帝国は崩壊した。
以上が、「戦争の世紀」20世紀初頭に起きた戦争の大掴みな記録である。
第二次世界大戦からウクライナ戦争へ
WW1の講和会議で採択されたヴェルサイユ条約において、英仏両国は返済が困難な賠償金をドイツに科した。これがヒトラー政権を誕生させ第二次世界大戦(WW2)の原因となった。
図3はWW2以降の重大事件をプロットしたものである。
ヒトラーはそもそも反ユダヤではなく強烈な反共産主義だった。ロシアにユダヤ人が多いため、次第に反ユダヤとなっていったのが真相であるらしい。イギリスもドイツに対しては宥和的でむしろロシアを警戒していた。
これに対してアメリカのウィルソン大統領はロシア革命をブルジョア革命とみなして賛美し、革命政権に資金援助を行っている。さらにフランクリン・ルーズベルト大統領は反ヒトラーのユダヤ系スタッフに囲まれていて、ヒトラーに開戦させるためにポーランドに住むドイツ人の虐殺を仕組んだ。ドイツを全体主義国家とみなし、英仏に対してもドイツとの妥協や交渉を禁じた。共産主義ロシアは日本やドイツにとって脅威であり、欧州や日本が共産主義と戦っている中で、ルーズベルトはソ連を承認している。
このように、ウィルソンとルーズベルトは共産主義ソ連(本来の脅威)を支援し、ドイツと日本(冷戦以降の同盟国)を戦争に追い込んで滅ぼすという、重大な誤りを犯したことになる。戦後の国際秩序から評価すれば、WW2を回避できた可能性を含めて、この二人はWW2における「真のA級戦犯」だったのではないだろうか。
19世紀以降の歴史において、金融資本家と軍産複合体は戦争や革命を起こして双方に資金と兵器を提供することで儲けてきた。馬渕睦夫氏は、著書の中で「東西冷戦は国際金融勢力が自ら樹立したソ連という国家を使って、(強大になり過ぎた)アメリカを解体しようと狙ったものである。WW2後、アメリカは世界の富の半分を所有する程の超大国に躍り出た。このような軍事力や経済力を備え、かつ精神的にも健全なアメリカの一人勝ちは、世界支配を意図する金融資本家にとって邪魔な存在だった。」と書いている。この分析に立つと、アメリカが中国の建国を支援し、勝てる戦争だった朝鮮戦争やベトナム戦争で意図的に勝ちを放棄した歴史が説明できる。
その後1980年代以降、新自由主義とグローバリズムが進展した結果、アメリカで貧困層が拡大し産業の空洞化と超格差社会が進んだ。結局、アメリカ自身が最大の犠牲者となり、中国が最大の受益者となったのだった。同時にソ連が崩壊し、旧東欧諸国が相次いで民主主義化してEUに参加していった。つまり、ソ連の解体とアメリカの弱体化、中国の急速な台頭という地政学的な大変化が同時に進行したことになる。世界が不安定化の方向に変化したのである。
ソ連崩壊後の2000~05年に旧東欧諸国で民主化を掲げた『カラー革命』が起き、政権交代が相次いだ。2010年末にはチュニジアで『ジャスミン革命』が起きてアラブ世界に波及し、2010~12年にはいわゆる『アラブの春』が起きた。さらに、2014年にはウクライナで『マイダン革命』と呼ばれた騒乱が起きて、親露派のヤヌコーヴィッチ大統領がロシアへ亡命して暫定政権が誕生した。ロシアは暫定政権を否定し、ヤヌコーヴィッチ政権の崩壊をクーデターによるものとみなした。『カラー革命』から2014年の『マイダン革命』に至る旧共産国やアラブ世界で起きた一連の革命の背後には、ジョージソロスが設立したオープン・ソサエティ財団の支援や、アメリカによる工作があった可能性が濃厚である。
ウクライナ戦争、誰が誰と戦っているのか
2022年にロシアがウクライナに軍事侵攻した。それ以降、欧米からの軍事支援を受けたウクライナはロシアと消耗戦を1年続けてきた。最近ではロシアの劣勢が鮮明になってきた感がある。ここで二つの問いを考えてみたい。最初の問いは「ゼレンスキーは誰と戦っているのか?」である。この答えは簡単で言うまでもないだろう。
では次の問い「プーチンは一体誰と戦っているのか?」はどうだろうか。この問いに的確に答えるためには、ウクライナ 戦争の歴史と深層についての理解が必要である。
ウクライナ戦争に至る歴史が物語ること
以上、アメリカ独立戦争からウクライナ戦争に至る近代史をザクっと概観してみた。この歴史が物語っていることを要約して、第1部を締め括ることとする。第2部ではプーチンの視点・論点について考察し、第3部では総括としてウクライナ戦争の深層について考察を加えて、ウクライナが起こした変化について考えてみたい。
(1)世界の歴史を紡ぐアクターは国だけではない。歴史では主要国に匹敵するパワーを持ったアクターが存在してきた。既にみてきたように、彼らはアメリカ独立戦争以降の戦争や革命において、大きな影響力を行使してきた。その最強の勢力はユダヤの金融資本家である。
(2)現代社会の国家の形態は、欧米と日本に代表される自由と民主主義・資本主義の形態と、「それ以外」の二つに大別されるだろう。二つの国家形態はアメリカ独立戦争とフランス革命、さらにはマルクスの共産党宣言を起源として生まれたものである。「それ以外」にはロシアや中国の形態が含まれるが、国家の形態の違いが現代の大きな対立を生んでいる原因となっていることは言うまでもない。
(3)戦争や革命は20世紀で終わることなく現代まで続いてきた。その理由は、第一に国家間の対立があるからであり、第二に意図的に戦争や革命を起こし、世界を不安定化させることによって大きく儲けようとする集団が今でも存在するからである。
(4)歴史を回顧すれば、ヒトラーがポーランドに軍事侵攻してWW2が始まったのも、日本が真珠湾を奇襲攻撃して大東亜戦争が始まったのも、ドイツや日本が自発的に起こしたものではなく、巧妙に仕組まれ挑発された結果だったことが既に明らかになっている。朝鮮戦争やベトナム戦争、イラク戦争にも同じ構図があった。またカラー革命もアラブの春も自然発生的な事件ではなく、仕組まれて起きた事件だった。そのような戦争や革命の大半を仕組んできたアクターは、米英両国と金融資本家だった可能性が高い。
(5)近代史をそのように概観するとき、ウクライナ戦争でも類似の工作が行われた事実に容易に気付かされる。少なくともウクライナ戦争は単独に起きたのではなく、ソ連の崩壊、旧東欧諸国の独立とEU及びNATOへの加盟、2014年のマイダン革命という流れの延長線上で起きたことは明白である。さらにプーチン大統領が軍事行動を起こすように、バイデン大統領が執拗に挑発してきたことも記憶に新しい。
現代ビジネスの2月17日版に、長谷川幸洋氏が「バイデンのヤバい破壊工作が暴露された」という記事を書いている。米国の著名なジャーナリストであるシーモア・ハーシュ氏が「ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン『ノルドストリーム』を海底で爆破したのは米国の仕業だった」という記事(※)を紹介した記事である。
シーモア・マイロ・ハーシュ(Seymour Myron “Sy” Hersh)の著書には、邦訳本が出版されているものでも、『目標は撃墜された-大韓航空機事件の真実』、『アメリカの秘密戦争-9.11からアブグレイブへの道』などがある。
(※)https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream
(第2部に続く)