ウクライナ戦争の深層(2)

ワシントンサイドの視点・論点

 ウクライナ戦争が起きた原因について、米スタンフォード大学フーバー研究所のシニア・フェローであるラリー・ダイヤモンド教授は次のように述べている。(ダイヤモンド・オンライン、2023.2.16、https://diamond.jp/articles/-/317665)

<プーチンは国粋主義者だ。ウクライナを独立国家ではなくロシアの一部とみなしている。旧ソ連構成国を傘下におき、ロシア政府の意のままに従わせたいと考えている。そして、ロシアの偉大さを取り戻すためなら他国の犠牲も厭わない。>

<我々は第二次世界大戦後に築いた世界-主権や人権の尊重、国境不可侵-の中で生きている。ロシアによってそうした世界が侵害されているのを目の当たりにしながら、ただ手をこまねいている訳にはいかない。ロシアのウクライナ侵攻を看過すれば他の独裁国家がさらに憤慨に満ちた武力行使を行いかねない。だからこそ我々先進民主主義国家が団結したのだ。>

 これは典型的なワシントンサイドの見解だ。

 第1部で歴史を概観したように、歴史上の重大事件を評価するにあたっては、少なくとも次の二点を押さえる必要がある。第一は、重大事件は必ず歴史に綴られた因果関係の連鎖の物語の一幕として発生していることだ。そして第二は、重大事件においては裏舞台でアクターによる工作が行われた可能性が高いということだ。この二点を押さえずに断定すれば、プロパガンダ戦の一翼を担ってしまう可能性すらある。

 ラリー・ダイヤモンド教授はこうも述べている。

<プーチン大統領は、ロシアを再び世界の超大国にしたいという野心と欲望に取りつかれる一方、国内の課題を前に疑心暗鬼に陥った。そして、自国の独裁体制や汚職から国民の目をそらすべく、2014年にウクライナのクリミアを併合し、親ロ派を支援して東部ドンバス地方の大半を支配下に収め、2022年2月にはウクライナに破滅的な戦争を仕掛けるという、国際的な侵略行為と領土拡大に走ったのだ。>

 いかなる歴史があろうとも、ロシアが独立国の主権を侵害して軍事侵攻したことも、それを命令したのがプーチン大統領であることも否定できない事実である。独立国に対する武力行使は国際法違反であり、安全保障理事会の常任理事国のポストを放棄することに等しい蛮行であることは言うまでもない。

プーチンの視点・論点(バルダイ・クラブでの発言)

 2022年2月24日にロシア軍が軍事侵攻を開始する前に、バイデン大統領が執拗に「プーチンはウクライナに侵攻する」と述べていた。そしてキエフに向けて軍事侵攻を開始したロシア軍が初戦から躓いたのは、英米両国からの全面的な支援を得たウクライナ軍が待ち構えていたからであった。

 ロシア側は英米の動きについて十分に把握していたと考えられるが、問題はプーチン大統領がどのような認識と理解のもとに軍隊を動かしたのかにある。これを知る手掛かりは、プーチンが語った言葉の中に見つけることができる。

 2022年10月末にモスクワ近郊で『バルダイ国際討論クラブ(the Valdai International Discussion Club)』が開催された。今回で19回目の開催で4日間の日程で行われたという。今回のテーマは、『覇権主義後の世界、万人のための正義と安全保障(A Post-Hegemonic World: Justice and Security for Everyone)』だった。恒例に従い、会議の最終日にプーチン大統領が登壇して1時間を超える演説を行い、その後に2時間半にわたって会場との質疑応答に応じている。

 会議でプーチン大統領が語った内容については、以下のサイトから拾うことができるが、プーチン大統領による演説の全文と、質疑応答の全てを網羅しているサイトは見つからなかった。

資料1:「Vladimir Putin’s Vision of a Multipolar World」、Philip Giraldi、2022.11.29

https://www.unz.com/pgiraldi/vladimir-putins-vision-of-a-multipolar-world/

資料2:「プーチンの考える多極化する世界」、Alzhacker、2022.11.30

https://alzhacker.com/vladimir-putins-vision-of-a-multipolar-world/

資料3:「バルダイ討論クラブのプーチン、多極化世界における伝統的価値の尊重を語る」青山貞一、独立系メディア  E-wave Tokyo、2022.10.31、http://www.eri.co.jp/independent/Ukraine-war-situation-aow1823.htm

 資料1の著者フィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi)は、米国の無党派のNPOである、the Council for the National Interest(国益を追求する評議会)の事務局長であり、それ以前はCIAのインテリジェンス・オフィサーという経歴の持ち主である。アメリカ人で元CIAの経歴ではあるが、プーチン演説を客観的に受け止めているように思われるので引用することとする。資料2は資料1を邦訳したものであり、資料3は会議終了直後に公表されたロシア語の文献を急きょ和訳したものである。

 以下は、プーチン大統領が語った言葉、あるいはジラルディの解説の中から、本記事の主題である「プーチンの視点・論点」に合致するものを選び、6つのテーマ毎に括り直して整理したものである。邦訳については資料②と③を参照し、その上で全体の文脈を考慮して直截簡明な和訳としたことをお断りしておきたい。

ソ連崩壊からウクライナ戦争に至る歴史

 以下は、プーチンの演説を踏まえたジラルディの総括的な意見である。

1)1991年、ソ連大統領だったゴルバチョフが、米国と同盟国からNATOを東に拡大しないとの口約束を得てソ連の解体に同意したことが、その後の紛争の種となった可能性がある。クリントン大統領はその公約をあっさり反故にして旧ユーゴスラビアに軍事介入した。それ以来、NATOはロシアの国家安全保障上の利益を無視して東に拡大を続けた。

2)1991年~1999年、ボリス・エリツィン大統領のときに主に欧米のオリガルヒによりロシアの天然資源が略奪された。無能で(酔っ払いだった)エリツィンは、米欧が干渉したロシア大統領選で誕生した傀儡だった。

3)1999年にウラジーミル・プーチンが登場し、首相として、そして後に大統領として、体制の立て直し(欧米が支援したオリガルヒの一掃等)を進めた。

4)やがてウクライナは紛争の焦点となった。米国はウクライナの政治に公然と介入し、タカ派のジョン・マケイン上院議員や、国務省の怪物ビクトリア・ヌーランドが頻繁に訪問し、50億ドルを投じてウクライナの政治情勢を不安定にさせた。そして親ロシア派のヤヌコーヴィチ政権を排除して、親米欧の政権交代を実現させた。(2014年のマイダン革命)

5)欧米は経済戦争、貿易戦争、制裁、カラー革命、あらゆる種類のクーデターを用意して(世界中で)実行してきた。マイダン革命はその一つだった。

 第1部で「ウクライナ戦争は単独に起きたのではなく、ソ連の崩壊、旧東欧諸国の独立とEU及びNATOへの加盟、マイダン革命という流れの延長線上で起きたことは明白である。」と書いた。上記ジラルディによる総括から、ソ連崩壊からウクライナ戦争に至るロシアの歴史をプーチンがどう認識しているのかを知ることができる。

アメリカ/西側が行ってきたこと

 次にソ連崩壊以降に1強体制を確立したアメリカが何をやってきたかについて、プーチンが手厳しい評価を加えている。

<中国との関係を台無しにし、ウクライナには数十億ドルもの武器を供給する等、一体彼らは正気なのか?このような行動は常識にも論理にも反していて、気違いじみている。>

<彼らは傲慢で何も恥じるところがない。彼らはイランの将軍であるスレイマニを殺した。スレイマニをどう扱おうが勝手だが、彼は他国の役人なのだ!>

<西側はいつも煽るようにプレイしている。ウクライナ戦争を煽り、台湾有事を挑発し、世界の食料・エネルギー市場を不安定化させている。もちろん後者は(ロシアが)意図的に行ったものではなく、欧米列強による多くのシステム上のミスによるものだ。そして我々は汎欧州のガスパイプライン(ノルドストリーム)の破壊も目の当たりにした。これはとんでもないことだ!>

<その昔ナチスは焚書を行った。今や欧米の「自由主義と進歩の擁護者」は、ドストエフスキーやチャイコフスキーを禁止するまでに落ちぶれた。そしてロシアから代替的な意見を提示すれば、それは「クレムリンの策謀だ」とされる。一体自分たちは万能なのか?>

 「西側はいつも煽るようにプレイしている」という指摘はその通りだろう。なかでも2020年1月3日(トランプ政権下)に車列を組んでバクダッド空港近傍を走行していたイランのソレイマニ司令官を、米軍が無人攻撃機で攻撃し殺害した事件については、アメリカ自身が公表しており、プーチンの指摘は正しい。

 ノルドストリーム爆破事件については、第3部で検証する。

アメリカの新自由主義的な世界秩序の危機

 アメリカがやってきたことに対するプーチンの批評が続く。

<今起きている事態はアメリカの新自由主義的な世界秩序モデルのシステム的というよりは教義的な危機である。彼らは創造や積極的な発展という考えを持たず、単に支配を維持することのみを世界に押し付けている。これに対してロシアは何世紀にもわたる伝統と価値観を大事にしてきた。(本来の国際秩序は)誰かに押し付けるものではなく、それぞれの国が何世紀にもわたって選択してきたものを大切にすることなのだ。>

<もし西側のエリートが、ジェンダーやゲイパレードのような、私からみれば奇妙な傾向を、国民や社会の意識に導入できると考えるなら、好きにすればいい。しかし彼らが絶対にやってはいけないことは、他の人たちに同じ方向に進むことを要求することだ。>

<1978年に行われたハーバード大学での演説で、ソルジェニーツィンは西洋について、「優越感の余韻の盲点」があると指摘した。それは今でも何も変わっていない。西側は自分たちの無謬性に自信を持ち、さらに踏み込んで、それを嫌う者を廃絶しようと考えている。>

<西側のイデオロギー論者は、国家システムとして彼らの自由主義モデルが唯一無二だと主張する。傲慢にも彼らは侮蔑的に他のバリエーションや形態を拒否してきた。しかも西洋が課したルールから自由になろうとする動きがあれば、すぐにそれを罰しようとする。このやり方は植民地時代から確立されたもので、自分たち以外は皆二流の人間とみなすものだ。>

<欧米が医薬品や食用作物の種を他国に売る場合、その国の医薬品や品種改良を殺すように命令して、機械や設備を供給し、地域のエンジニアリングを破壊してきた。ある商品群の市場を開放した途端、現地の生産者は「寝たきり」となり、市場や資源が奪われ、各国が技術的・科学的な潜在能力を奪われていく。これは奴隷化に他ならず、経済を原始的なレベルまで低下させるものだ。>

 ここでプーチンが指摘していることは、その通りなのだろうという他ない。

経済制裁下でのロシア経済について

 ここでは米英が科した経済・金融制裁下の、ロシア経済の現状と見通しについて述べている。

<ウクライナ戦争における米欧の目的はロシアをより脆弱にすることだ。ロシアを自国の地政学的目標を達成するための道具にすることだ。しかしそのようなシナリオはロシアに関しては巧くいかなかったし、これからも巧くいかないだろう。>

<金やユーロ・ドル建ての外貨準備の凍結など、多くの制裁措置がとられているが、欧米諸国による対ロシア経済制裁は失敗している。米国と欧米諸国はドルを武器として使い、国際通貨制度の信用を失墜させた。ドルやユーロ圏のインフレによって通貨を下落させ、ロシアの外貨準備を略奪した。今後ドル決済から自国通貨建て決済への移行が進むことはもはや避けられない。>

<経済制裁下で、我々は全てを生産できないことを理解している。しかし、ロシア経済は概ね経済制裁の状況に適応してきた。輸出入ともに新しいサプライチェーンを構築し、それに伴うコストを削減するためにやるべきことがたくさんあるが、一般的には困難のピークは過ぎた。今後はより安定し、より主権的なプラットフォームでさらに発展していくだろう。>

<モスクワは自分たちが存在し自由に未来を拓く権利を守ろうとしているだけで、新しい覇権になるつもりなどない。同時に、ロシアは独立した別個の文明として、自らを西側諸国の敵と考えたことはないし、考えてもいない。>

 経済に関する制裁の影響は長期化する程深刻さを増してゆくだろうから、プーチンの状況認識は「これまでのところは」と受け止めるのが適切だろう。日用品については隣国のベラルーシなどから調達できるだろうが、ミサイルや航空機やエネルギープラントなどで使われている西側のハイテク部品、特に半導体や素材は容易には代替できないものであり、1年が経過したこれから深刻化してゆくことが予測される。

 プーチンの発言の中で、制裁の結果決済手段としてドルを使わないエネルギー取引が増大しており、長期的展望に立てばドル覇権の弱体化が進むことを指摘している点は重要だ。

多極化世界への呼びかけ

 バルダイ・クラブにおいてプーチンが発信したメッセージの中で、ここが核心の部分である。「プーチンは一体誰と戦っているのか」という問いの答えがここにある。

 プーチンは、<米国が法の秩序を要求する一方で、それに従わない相手を力づくに威圧することは、もはやできない>として、多極化世界への移行(a transition to a multipolar world)に向けて結集を呼びかけた。

<我々は歴史的な分岐点に立っている。我々の前には、恐らくWW2以降最も危険で、予測不可能で、同時に重要な10年間が待っている。>

<我々には二つの選択肢がある。一つはやがて崩壊することが避けられない問題を、我々全員が今後も背負い続けてゆく道(すなわち米国への追随)であり、もう一つは協力して解を見つけて不完全ではあるが世界をより安全に安定にすることができるよう努力を続ける道(多極化の追求)だ。>

<私は常識の力を信じている。遅かれ早かれ、多極化した世界秩序の新しい中心地と西側諸国は、共通の将来について対等に話し合いを始めなければならないと確信している。>

 プーチンは多極化世界へ移行するための呼びかけを行っている。プーチンは<多極化世界における真の民主主義とは、いかなる国家や社会も、自らの社会政治システムとその進路を選択する能力を有することを意味する。>と強調した。

 今後世界が多極化に向かうのかどうかという問いは、これだけで大きなテーマであるに違いない。一方で、ソ連崩壊以降の歴史を概観すれば、中国やBRICSが台頭し、グローバルサウスの発言力が増大し、相対的にアメリカが弱体化しているという大きな動向は既に顕在化している。

年次教書演説での注目発言

 プーチン大統領は2月21日にモスクワで恒例の年次教書演説を行った。注目すべき箇所を以下に引用する。(産経新聞、2月22日)

<米欧がロシアを永遠に滅ぼそうとしている。ナチスと同じく、米欧はロシアへの攻撃を企図している。ウクライナを取り込み対露攻撃の手先にしようとした。>

 つまり(ロシアにウクライナ戦争に踏み切らせた)米欧の目的はロシアを滅ぼすことにあり、そのためにウクライナを利用した(戦場にした)。プーチンはそう認識している。

<軍事作戦の目的はウクライナから米欧の影響力を排除することだった。2014年の政変(マイダン革命)でウクライナに生まれたネオナチ政権がもたらした脅威を取り除き安全を確保するため、特別軍事作戦を実行した。2014年からドンバスの住民はロシアが助けに来てくれるのを待っていた。>

<だが我々の背後には全く別のシナリオが用意されていた。ドンバスでの平和を実現するという西側の指導者の約束は真っ赤な嘘だった。>

 この「約束」というのが何を指しているのかは不明だが、「全く別のシナリオ」とは、ロシアに軍事侵攻させてロシアを滅ぼす戦争を始めることを指していると解釈される。

<強調したいのは、軍事作戦前に既にキエフ政権と西側の間で、防空システムや戦闘機などの供与についての交渉が行われていたことだ。キエフは核兵器を受け取ろうとしたことも覚えている。西側によって奴隷にされたウクライナを、大きな戦争に向けて準備させた。私たちはウクライナの国民と戦っていない。彼らはキエフ政権と西側の飼い主の人質になった。ウクライナでの紛争がエスカレートした責任は西側諸国とキエフ政権にある。>

<西側はロシアに経済制裁を加えたが、何も得られなかった。2022年のGDP減少は20~25%と予想されたが、2.1%の減少に留まった。ロシアは経済のゆがみを回避して新たな成長サイクルに突入した。>

 プーチンの「我々の背後には全く別のシナリオが用意されていた。・・・米欧がロシアを永遠に滅ぼそうとしている。」という発言は、後述するようにとても重要である。なぜなら元KGB出身のプーチンであるから、「米欧が準備を整えてロシアがウクライナに軍事侵攻するのを待ち構えている」ことは当然把握していたと思われるが、それがロシアを滅ぼすシナリオの発動になることまでは読み切れていなかったと告白、あるいは言い訳しているからである。

プーチン大統領の視点・論点(まとめ)

 バルダイ・クラブにおいて、プーチンはウクライナ戦争について自らの認識を丁寧に語ったように思われる。資料を読む限り、全般にわたってトーンは客観的であり、資料3の青山貞一教授は、「深く民主的である」と評している。

 プーチンの認識として重要なポイントは三点に整理されるだろう。

 第一は、ゴルバチョフによるソ連解体も、エリツィン時代に行われたオリガルヒによるロシア天然資源の掠奪も、舞台裏ではアメリカによるシナリオがあり工作が行われていた。そしてアメリカによって弱体化されたロシアを自分が立て直してきたその過程で、2014年にマイダン革命が起きた。クーデターによって親露政権が倒されて現在の親米のゼレンスキー政権(ネオナチ政権)が登場した。

 第二は、軍事作戦の目的は2014年から待っていたドンバスのロシア系住民を救出し、ウクライナから米欧の影響力を排除することだったが、ここには全く別のシナリオが周到に用意されていた。すなわちロシアにウクライナへ軍事侵攻をさせておいて、それを名目としてロシアを滅ぼすシナリオを発動するというアメリカの深謀遠慮があった。

 そして第三は、大統領職に就任して以来、ロシアはアメリカの敵ではないと丁寧に説明してきたにも拘わらず、アメリカは自分たちの民主主義形態以外を認めず、自分たちが作るルールを国際秩序と位置付けて、それに従わない国を弾圧してきた。世界はこれからもアメリカ1強体制の中でアメリカが作るルールと圧力に屈して生きるのか、それとも各国の歴史と多様性を大事にする「多極化」の世界を作っていくのか、我々は歴史の分岐点に立っている。

 プーチンのこの認識を踏まえて、「プーチンは一体誰と戦っているのか」という問いを考えてみよう。既に明らかなように、ウクライナ戦争は三階層の構造を持っている。①ロシア対ウクライナの地上戦、②ロシア対 NATOのエネルギーを含めた地政学を巡る戦争、③ロシア対アメリカの世界秩序の形態(多極化か米国1強体制の継続)を賭けた覇権戦争の三つである。

 既に開戦から1年が経過した現在、1月までに各国が表明したウクライナへの軍事支援は総額で622億ユーロ(約8.9兆円)に上り、ロシアの2021年の軍事支出に匹敵するという。この支援が続く限り、ロシアが①の戦争で勝利を収めることは困難だと言わざるを得ない。なぜならウクライナ戦争は、ウクライナが戦場と兵を提供し、欧米が武器とインテリジェンスを提供して行われている、実質はNATOとロシアとの戦争であるからだ。

 そして、もし①でロシアが敗退すればウクライナを含む周辺国のロシア離れは加速し、ロシアが弱体化し、EUとNATOの拡大が再び進む結果、②の欧州を中心とした地政学の構図が大きく変わることになる。

 一方で、ノルドストリーム爆破がアメリカの作戦によって実行された可能性が濃厚であり、プーチンが言うようにアメリカの傲慢で何でもありの行動に対し、アメリカ離れが徐々に進行してゆけば、世界は自ずと多極化に向かうことになる。

 プーチンが「我々は歴史的な分岐点に立っている。我々の前には、おそらくWW2以降最も危険で、予測不可能で、同時に重要な10年間が待っている。」と述べた真意はここにあると思われる。

-第3部に続く-

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