中国経済の現状と未来(前編)

(1)データから読み解く中国経済の現状

 宮崎正弘は著書『WORLD RESET 2021大暴落にむかう世界』の中で、中国経済の現状についてデータを基に分析している。また、中国ウォッチャーの専門家が様々な角度から中国経済の現状について記事を書いている。それらを参照し、データをもとに中国経済の現実の姿を俯瞰してみたい。参照文献は末尾に整理した。

虚飾の経済成長

 「中国の2020年のGDP成長は2.3%だった。2021年度のGDP目標値は6%を上回る」と全人代で李克強が宣言している。それに対して、中国人民銀行の馬駿貨幣政策委員は中国のシンクタンクの会合で「GDP成長率など永久に葬れ」と発言したという。「GDP数値は作為的であり、財政支出を合法化しているだけだ。地方政府債務、金融市場における実情を見れば、成長とは裏腹に債務が急膨張している。」と中国経済の現実について警鐘を鳴らした。

 宮崎正弘は「中国が直面する深刻な課題は、経済成長より人口減と負債増である。2028年に中国のGDPがアメリカを超えるなど誰が本気にしているのか。中国の発表は殆どがウソであり、あらゆる経済統計はフェイク数字である。外貨準備は空っぽで、GDP統計は3割水増しが常識だ。」と指摘している。

 産経新聞が『「ピークパワーの罠」に陥る中国』と題した記事を10月22日に掲載している。それによれば、実際に中国の経済成長率は2007年の14%(公表値)から2020年の2.3%(実際値)に大幅に減少した一方で、債務は2008年から2019年の間に8倍に急増している。

 さらに予測される事実として、中国では2020年から2050年までに労働人口が2億人減り、高齢者が2億人増加すると、記事は衝撃的な未来を報じている。

負債の急増

 中国経済が抱える負債の実態は次のとおりである。円換算の概略値を示す(推定を含む)。

・中国の負債総額は1京円(GDP実力値の9倍)を超えて制御不能状態に陥った。

・地方政府の傘下にある地方融資平台(資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社)の累積残高は630兆円

・地方政府の債務は1100兆円(中国のGDP実力値に匹敵)

・高速鉄道の赤字は2018年末で、地方政府分を含めた合計は290兆円

・高速道路の赤字は96兆円で、地方政府分を含めた合計は200兆円、一方収入は10兆円しかない

・銀行が抱える不良債権はおよそ60兆円

・一流国有企業が相次いでデフォルト、名門企業も倒産、国有企業の大半がゾンビ企業

・中国企業が2023年までに満期を迎える社債の償還の総額は約230兆円で、2018~2020年の1.6倍に増大

・債務を多く抱えるのは大手国有企業で、公共事業の受け皿となってきた土木、建設に政府直轄の鉄道と配送電を担う2社を加えた償還額は66兆円

・人民元建て債の債務不履行は今年1~4月に1.6兆円となり、過去最高を更新。外貨建て債の償還額は23年までに18.9兆円あり、債務不履行が増加

 何れもが尋常な数字ではない。中国の実質GDPはIMFの公表値で91.55兆人民元(2020年)、98.88兆人民元(2021年予測)である。為替レートを1人民元=17円とし、「3割水増し」を考慮すると、2020年及び2021年のGDP実力値はおおよそ1100兆円と推定される。従って負債総額1京円はGDPの9倍に相当する、途方もない規模なのだ。借り手と貸し手の金額はイコールだから、貸し手は何処にいて、今後海外の投資家がどれほどの不良債権を抱えるのかが注目される。

ミンスキー・モーメントに向かうインフラ投資

 現在でも天文学的な負債を、さらに増大させる驚愕のインフラ整備が計画されている。

・鉄道営業キロ数を2035年までに20万キロに、高速鉄道を7万キロに拡大。ちなみに、2020年末までに開業した営業キロ数は3.7万キロ

・高速道路は2035年までに5割延長して16万キロに拡大(ちなみに米国は9.8万キロ)

・2035年までに新たに162空港を開港

 とにかくGDP目標を堅持するために、中国は無謀な財政出動を続けて土木建設、インフラ整備に巨費を注ぎ込んできた。産経新聞の記事によれば、2015~2020年の間に中国が生産したセメントの総量は、20世紀全体でアメリカが生産した総量の3倍に上るという。

 中国の社会インフラ整備は、地方融資平台(既述)が地方政府から土地の使用権を買って行っている。国有企業の場合には国有銀行から融資を受けられるが、民間の開発業者は政府の統制が及ばないシャドー・バンキングと呼ばれる理財商品から資金を調達している。

 政治体制の如何を問わず、誰かの債務は誰かの資産である。貸し手と借り手の金額はイコールである。社会インフラ整備は、資本主義国では完成後の採算性を予測してから着工するが、中国ではGDP成長率の維持が至上命題であってそもそも採算性という概念がない。このため地方政府は中央政府に忖度して、入居者がいない高層マンション、利用客がいない高速鉄道や高速道路、空港を次々に作ってきた。

 しかしバブルはいつまでも続かない。融資がひとたび不良債権化すれば、借り手から貸し手へ、さらにその貸し手へとバトンリレーのようにデフォルトの連鎖が起こる。そして投資家が保有資産の投げ売りを始めた時点で資産価格が雪崩のように崩壊して経済崩壊に至る。いわゆるミンスキー・モーメントの到来である。

 コロナ対策として日米欧が巨額の財政出動を行ってきた。米国が約200兆円、日本が約100兆円(真水は73兆円)に上る。財政出動であり余った資金の内、約57兆円もの投機資金が香港経由で中国の債券市場へ流れ込んだという。中国は渡りに船で外貨不足をやりくりできた。しかし、米欧が金融緩和からインフレ引き締めへと金融政策を転換するとこの流れが止まる。アメリカは既にインフレ対策に舵を切っているのだ。

恒大集団のデフォルト

 中国政府は2020年夏以降、不動産開発業者に対する締め付けを強化してきた。その結果、資金繰りに行き詰まる業者が2021年2月以降に相次いでデフォルトを起こしている。標的とされたのは巨大不動産グループで総資産約40兆円を持つ恒大集団である。

 9月22日に東京株式市場の日経平均株価が急落して3万円を割り込んだ。産経新聞は『中国版リーマン警戒』と題した記事で、恒大集団の経営危機が世界的な株安に発展した形だ。」と報じた。

 さらに10月2日には『恒大機に慢性化する中国金融危機』と題した解説記事を載せた。「恒大集団の負債は約33兆円で、中国の民間(家計・企業)負債総額4300兆円の1%未満だが、恒大に限らず中国の不動産大手が巨額の債務返済を迫られているために、債務不履行が重大視される」と警告している。

 また日本経済新聞は12月17日の記事で、欧州の格付け会社フィッチ・レイティングスが12月9日に「部分的デフォルト」を認定したのに続いて、アメリカの格付け会社S&Pグローバルが恒大集団の格付けを「選択的債務不履行」に下げたと報じた。債務総額33兆円のごく一部だが、最初のデフォルトが始まったということだ。

 国際投資アナリストの大原浩は『米中不気味な均衡、中国恒大集団デフォルト目前も』と題した記事で、「リーマンショック級の事件が起こりつつあることは明白なのに、市場が思いのほか落ち着いているのは不気味だ。今回の不気味な動きは経済問題以上に米中の政治問題が大きく関わっていると思われる。」と書いている。これについては後段で触れる。(ZAKZAK、12月20日)

 恒大集団が発行したドル建て債のデフォルトが既に始まった。今後恒大集団の経営破綻へと事態が悪化すれば、それを引き金としてミンスキー・モーメントを超える事態が2022年にも起こることが予測される。

専制国家におけるITプラットフォーマーの宿命

 中国金融当局はアリペイの上場停止、テンセントなどへの規制強化を打ち出した。また今年4月にアリババに独禁法違反を適用し3000億円という巨額の罰金を科している。

 元陸将補で軍事研究家の矢野義昭は『中国で噴出している軍事力増強の歪み、訓練事故が相次ぐ』と題した記事の中で、習近平指導部は「民間経済に対する支配統制と富の簒奪」を進めていると指摘している。「アリババ創業者のジャック・マー氏を排除して党による同社経営権支配を進め、滴滴(ディディ)のニューヨーク株式市場への上場を中止させるなど、中国民間企業の国際進出を抑制して、国内での内部循環を進めようとしている。」と。(JBPress、2021.10.20)

 これらの規制強化の結果、中国ハイテク企業の株価は2020年以降で今年2月にピーク値をつけてから、10月には半値に下落した。

 日中産業研究会代表取締役を務める松野豊は『中国の政治経済の変容をどう見るか』と題した記事の中で、ITプラットフォーマーに対する中国政府の政策と企業動向について次のように分析している。(Record China、2021.11.19)

 近年アリババやテンセント、京東、美団、滴滴などの企業が、国有企業の支配が弱かった新産業分野でその創造性を一気に開花させ、中国に「デジタル産業」という巨大で政治的にも魅力的な産業を生み出した。中国政府はこれまで彼らのイノベーション力を利用して経済成長を保持してきた。一方ITプラットフォーマーは、法規制が緩く企業活動に政府の監視が十分行き届かないことをいいことに縦横無尽にビジネスを拡大してきた。そして、彼らは、膨大な個人情報を集積しデジタル通貨さえも発行できる力を獲得した。

 ここに至って、中国政府は独占禁止法や情報保護法などの運用を厳格化して、好き勝手な活動に歯止めをかけることを決定したという訳だ。経済成長が至上命題であるにも拘わらず、国家の権限と優位性を脅かす存在となることは容認しないという姿勢を明確にしたのである。

地方政府財政を破綻させる不動産税

 林建良は『不動産税で自滅する中国』という記事を書いている。それによると、中国政府は10都市を選んで5年間、不動産税を試験的に導入することを決めたという。中国では不動産はGDPの25%を占めており、関連事項を含めるとGDPの40%に上る。(Taiwan Voice、2021.11.4)

 中国国家統計局は10月18日に不動産価格が前年比で16%下落したと発表した。実際はもっと深刻と思われる。地方政府の財政の収益の1/3が土地の売買であり、2020年にその額は8兆人民元(128兆円)に上っている。

 中国政府が6月4日に打ち出したのは、地方政府の土地売買の収入を中央政府が没収する代わりに、不動産税の収入(16兆円相当)を地方政府に渡すという目論見である。その狙いについて林建良は、歴代共産党政権の大物政治家は巨額の財産を持っていて、その大半を不動産の形で国内に持っている。不動産導入の狙いはそれを潰そうとするものだという。

 しかし、不動産バブル崩壊前夜というタイミングで税収没収を断行すれば、地方政府を潰すことになり、ひいては中国経済を崩壊させる危険性がある。

一帯一路の隠れ債務

 一帯一路という目玉のプロジェクトの崩壊が本格化してきた。3年前に習近平がアフリカを訪問した折に600億ドルを投資すると豪語したが、実際に投下されたのは88億ドルだった。そしてアフリカ23ヵ国へ貸し付けた21億ドルは償還できずに焦げ付きとなった。マレーシアはマラッカ・ゲートウェイ構想を白紙撤回した。イシンガポールはマレーシアをつなぐ新幹線プロジェクトを中止した。パキスタンにおける一帯一路プロジェクトが頓挫した。インドネシアの新幹線は完成予定を大幅に延期したものの目途が立っていない。

 産経新聞が11月19日に『一帯一路、隠れ債務44兆円』と題した記事を掲載している。米国の調査機関エイドデータ研究所が、中国が世界165ヵ国と手掛けた1万3千件の一帯一路事業を精査した結果を今年9月末に発表していて、各国政府が公表していない「隠れ債務」は世界で約44兆円に達するという。

 中国は2013年に一帯一路構想を発表して以来、2013~2017年の間に途上国向けの開発援助を急拡大しており、その融資額は年平均で約9.4兆円に上っており、これは日米の融資額合計よりも多い。隠れ債務額/GDP比が最も高いのがラオスで、35%に達していて危険水準にあるという。

参照文献:

・『WORLD RESET 2021大暴落にむかう世界』、宮崎正弘、ビジネス社、2021.6.1

・『中国企業、重い債務返済、迫る社債償還230兆円』、日本経済新聞、2021.5.12

・『電力不足、不動産デフォルト、IT企業規制の3大危機が中国経済を襲う』、エコノミストOnline、2021.11.8

・『米中不気味な均衡、中国恒大集団デフォルト目前も』、大原浩、ZAKZAK、2021.12.20

・『一帯一路参加国、隠れ債務44兆円』、産経2021.11.19

・『中国で噴出している軍事力増強の歪み、訓練事故が相次ぐ』、矢野義昭、JBPress 2021.10.20

・『ピークパワーの罠に陥る中国』、湯浅博、産経新聞、2021.10.22

・Taiwan Voice、林建良

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