アメリカ大統領選が終わり、バイデン新大統領が就任したが、今回の大統領選は余りにも異常な「事件」であり、幾つかのレガシーが終焉を迎えた転換点として歴史に記録されるのではないだろうか。
今回の事件には注目すべきシーンが三つある。第一幕は郵便による投票と開票を巡る不正であり、第二幕は暴徒化した一部民衆による議事堂への乱入、そして第三幕はトランプ大統領に対する弾劾である。
第一幕の不正まみれの大統領選、どこがどう不正だったのかについては、古森義久、藤井厳喜、田中宇、小浜逸郎ら多くの専門家が分析しているので割愛する。
現在は何が真実なのかが明らかになっていない状況だが、これが歴史に残る重大事件であることに変わりはない。民主党陣営が行った不正だけでも超弩級の事件なのだが、主要メディアが揃って民主党側に陣取って、なりふり構わずトランプ追放作戦を展開したことも前代未聞の大事件だった。主要メディアが報道という中立な役割をかなぐり捨てて、参戦してしまったのだから真実が分からないのは当然である。真実は最後まで闇の中に封印されるのだろう。
民主党が組織ぐるみの大規模な不正を犯したことを立証することは困難だが、一つ明らかなことがある。それは民主党がここ数年周到に郵便投票の拡大を進めてきた事実である。特に今回の大統領選においてはコロナ感染防止を理由にして有権者に積極的に郵便投票を呼び掛けたという。
郵便投票は事前投票の手段であり、今回はそれに加えて「投票収穫」という手法が加わった。投票収穫とは有権者が記入した投票用紙を収穫人が集めに回って選挙管理側に届ける方式だというが、日本人の感覚からすれば「そんな杜撰な!」と絶句するものだ。実際に今回不正が指摘されたケースは、何れも郵便投票に係るものだった。
第二幕は1月6日の両院合同会議の場に暴徒化した一部の集団が乱入した事件だ。これによって、事件の主題は「民主党陣営による組織的不正選挙」から、「トランプが暴徒を扇動した国内テロ事件」へと転化してしまった。「正義と悪魔」の構図が出来上がってしまった。もしシナリオライターがいたとすれば、これほど見事な展開はないだろう。議事堂への乱入者の中に反トランプ派の過激派が紛れ込んでいたというFOX社の報道もあるが、騒動の中で大きな注目を集めなかった。
古森義久は、1月6日の乱入事件について、CNNの看板ニュースキャスターがこの騒ぎを「内乱」と呼び「トランプ大統領の命令だ」と実況中継していたことについて、露骨で憎悪と軽蔑に満ちた報道だったと指摘している。
そして第三幕だが、日米の主要メディアが「トランプは史上初めて二度弾劾訴追された」と報道したが、何れも不成立であり、むしろ注目すべきはトランプ大統領が退任間際にあり、在任中に結論が出ない弾劾手続きを何故民主党が強行に始めたのかという点にある。ナンシー・ペロシ民主党議長はCBSテレビのインタビューで、「弾劾によりトランプ氏が次回の大統領選挙に出馬できないようにすることが目的の一つだ。」と述べたという。常軌を逸した暴言という他ない。
この事件を総括するのは時期尚早だが、今回の大統領選で幾つかのレガシーが終焉を迎えるのではないだろうか。第一に、公正な選挙も、さらには公正な選挙を前提とする民主主義も幻想だったことが公知となり国民に浸透してしまった。
第二に、国民に中立な判断情報を提供する報道という社会機能が大きく棄損してしまった。
第三に、今回の事件を契機として、二大政党制も崩壊に向かうのではないだろうか。本来民主党に対し一致団結して不正選挙を正さなければならなかった共和党だが、反トランプの集団が一部にいて肝心要のときに団結できなかった。それどころか最近ではトランプ党となるくらいなら共和党を離党するという議員が現れているという。
一方反トランプで結集した民主党だが、もともと中道左派から極左までの集団であり、共通の敵トランプが居なくなったことで、これから内部分裂してゆく可能性がある。
視点を変えてみれば、民主主義の危機に直面してその原因を作った民主党も、阻止できなかった共和党も、もはや無用の長物となったと解釈すべきなのかもしれない。
第四に、本来「相応しくない」人物が大統領になることを防止するために、とても複雑で長い期間をかけて行われてきた大統領選挙というシステムの信頼性が失墜した。トランプとバイデン、何れが「相応しくない」大統領なのかは、何れ歴史が証明してゆくだろう。
第五に、以上のレガシーの終焉と同時に、アメリカ社会に、しかも自由と民主主義という社会の基盤層に修復不能な深い断層ができてしまった。これは今後のアメリカ社会と国家運営に深刻なダメージを与えてゆくに違いない。
最後に付け加えることがもう一つある。今回の政変の背後に中国共産党の影響力があるという事実である。フリージャーナリストの山口敬之は、Hanada 3月号で、民主党の最強の地盤となっているカリフォルニア州では、政治、経済界、市民レベルで共産主義者による巨大なシンジケートが形成されていると警告を鳴らしている。カリフォルニア州は副大統領カマラ・ハリスの地盤でもある。「アメリカという国に、もはや世界最強の反共帝国の面影はない。中国共産党に政治中枢を侵され、国家の基盤である実力組織を弱体化され、地域社会まで分断された斜陽の大国である。」と指摘している。
さて、レガシーの崩壊後にどのような未来がやってくるのだろうか。戦後を概観してみれば、先の大戦が終結してから45年後に冷戦構造が崩壊し、米国一強の時代が到来して、民主主義が社会主義を放逐したかに見えた。それから30年を経て、自由と民主主義のリーダーであるアメリカを「巨大地震」が襲った。大量の移民とコロナによってEUは既に失速しており、欧米が相次いで失速してゆく中で、コロナ危機から一足早く危機を脱出した全体主義、共産主義の中国がますます攻勢を強めてくる展開となるだろう。
日本の視点に立ってこの世界情勢を眺めると、山口敬之の指摘は日本に対する重大な警告でもある。よくも悪くも超大国アメリカと同盟関係を結んで平和な環境を享受してきた日本だが、アメリカの失速・混迷とますます攻勢を強める中国に挟まれて、その平和な時代をもたらした環境が一変してしまった。正に風雲急を告げる展開となりつつある。