原発忌避からの脱却

 安全保障や原発は、政府が国益追求の戦略として推進すべきものであり、世論の盛り上がりを待ってから進めればいいというものではない。

 国益追求と世論の動向は必ずしも一致しない。そもそも国民は政治に対して、往々にして好きか嫌いかで判断することが多く、世論調査とは所詮その程度のものでしかない。一方国益追求は政府・政治家の使命である。国際社会との関係において、放置すれば国益が大きく損なわれることが懸念される場合には、政府・政治家は国民に対し国益を語り、国益追求の進路を論理的に説明して、世論を牽引しながら堂々と政策を推進すべきである。

 政府が国民に忖度して重要な政策決定を足踏みする状態を「思考停止」状態と呼ぶとすれば、安全保障も憲法改正も原発も、現在思考停止状態にあるといっていい。

 10年前に東日本大震災が起こって以降、国民の大半は原発を忌避したままである。しかしながら、国民の忌避と政治家の思考停止は同列ではない。しかも「原発はもう嫌だ」というのは情緒的反応であって、論理的思考の帰結ではない。国民の忌避に忖度して政治家が思考停止状態を続けることは、国益を毀損するという意味で政治家の責任放棄に他ならない。

 今回のコロナウィルスのように、人類の前には次々に危機や難題が立ち塞がる。その時国益追求の思考はどうあるべきだろうか。単純なプリンシプルを言えば、「もし眼の前に困難な道と楽な道の二つがあるのなら、躊躇することなく困難な道を選べ」ということだろう。この二者択一は「乗り越える」か「逃げる」かの選択と同義である。輝かしい未来は常に困難を乗り越える方向にしかないことを肝に銘ずるべきだ。何故なら乗り越えるために新たな知恵を出し、それを実現する技術開発に挑戦することこそ、国を強くし豊かにすることだからである。

 3.11が起こり、津波で冷却水が途絶して原発が暴走した。この時点で日本の選択肢は二つあった。「原発は危険だからもうやめよう」という選択と、「ならば暴走しない原発を作ろう」という選択である。いうまでもなく前者が「楽な道」であり、後者が「困難な道」に相当する。3.11以降の世論は「楽な道」に大きく傾き、政府は現在に至るまで思考停止状態にある。

 10年後の今、この問題を論理的に再考してみれば、次の思考過程を経るに違いない。まず「原発は未来の日本にとって必要か」という問いから始めれば、その答えは間違いなくイエスである。特に2050年までにCOゼロを目指すと宣言した以上、原発は不可決となる。何故なら有識者が指摘している(※1,2)ように、現実は以下のとおりであるからだ。

①再生可能エネルギー発電は天候に左右されるためバックアップ電源が不可欠となる。バックアップ電源となり得る安定電 源は火力か原子力しかない。

②太陽光発電や風力発電は本質的に不安定で、周波数が安定しないという欠点がある。このため半導体製造などの精密機械の生産には使えない。

③電力需要は時々刻々変化する。絶え間なく過不足なくかつ安定して電力を供給するためには、トータルで発電量を調整する必要がある。現在火力発電がこの役割を担っており、目的から考えて再生可能エネルギーは適さない。

④2016年に鳴り物入りで、政府は電力の自由化へ舵を切ったが、再生可能エネルギーが高価なため、現在2.4兆円の賦課金が国民負担(国民一人当たり約2万円)となっている。

※1「原発ゼロは国を亡ぼす」、澤田哲生、正論4月号                               ※2「復興日本、動かぬ原発、厳冬で電力逼迫」、産経新聞3月10日版

 以上述べたように、現在の状況を踏まえると、エネルギー政策を巡る命題は、①電力を安定供給し、②電気代を安くし、同時に、③CO2ゼロ政策を推進することとなるが、そのためには原発を巧く使う他にないのである。

 この場合、「困難な道」を進むために克服すべき課題は、「暴発しない原発」の開発である。いつの時代にも、どのような課題でもそれを乗り越えるには、新たな技術開発が必要となる。しかも日本は技術開発立国を標榜している。本気でそう位置づけるのであれば、人類の課題を解決する技術を世界に先駆けて開発することが日本の役割であると覚悟する他ない。

 ここに朗報が一つある。日本原子力研究開発機構が次世代の原発である「高温ガス炉」の開発に成功した。この原発は、構造上大型化には不適で小型モジュール炉に適し、原理的に炉心溶解事故を起こすことはなく、冷却に水を使わないことから、内陸でも使用可能という優れた特長を有している。「高温ガス炉」技術では日本が世界の先端を走っている。(※3)

※3「地球を守る日本の次世代原発」、産経新聞2月3日版

 3.11以降、世界は原発中止の方向に大きく傾いたが、カーボンニュートラルが注目された結果、2019年頃からイギリス、オランダ、スウェーデンなどが原子力推進に舵を切っている。正に風向きが変わったのだ。ならば日本も2050年にCO2排出量の実質ゼロを宣言したことを契機に、次世代原発の実用化・新増設と世界に向けた提供に政策を転換すべきである。世界の期待に応えることこそ国益である筈だ。ここで思考停止を続ければ、この重要技術で中国が世界のリーダーとなりかねない。既に国益をかけた戦いが始まっているのである。

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