地球で起きた重大事件(3)

サピエンス編

サピエンス登場以前

 生物の進化を促進した力は環境の激変だった。6600万年前に「K-T境界の大絶滅」を起こしたのは直径10kmの隕石の衝突だった。それ以降で人類登場以前の6000万年の間には、大陸移動や造山活動も起きていた。主なものは次のとおりである。(以下、歴史的事実については「ホモ・サピエンスの歴史」を参照した。宝島社、2017年7月。)

・6600万年前、哺乳類の始祖となるプロトゥングラトゥム(体重300kg未満)が登場した。

・5500万年前、著しい温暖化が始まった。

・4000万年前、インド大陸がユーラシア大陸に衝突してヒマラヤ山脈が形成された。

・3600万年前、氷河期が始まった。

・2300万年前、再び温暖化となった。

・1900万年前、アフリカ大陸がユーラシア大陸に衝突して陸続きとなった。

 また寒冷化と温暖化、砂漠化、大規模なカルデラ火山噴火等の天変地異は、人類誕生後にも幾度も起きている。69万年前には最後の「磁極の逆転」が起きている。地球磁場が逆転する過程では地球磁場が消滅してしまうので、生命は有害な宇宙線を浴び続けたことになる。

 より小規模なものを含めれば絶滅はおよそ2600万年ごとに起きたと言われているが、哺乳類が存続の危機に直面する事態は、もっと頻繁に起きていたに違いない。そのたびに危機を生き延びた動物は新しい環境に適応するように突然変異を繰り返して進化を重ねた。絶滅と進化は対で起きたのだ。

最古の人類(初期猿人)が登場してから現代人の祖先が登場するまでの人類の進化は概ね次のとおりである。

・700万年前、初期猿人が登場した。気候が安定した暖かい時期だった。

・400万年前、猿人アウストラロピテクスが登場した。

・300万年前、最後の氷河期が始まり、265-200万年前には激しい乾燥・湿潤の気候変動が起きた。

・250-160万年前、原人ホモ・ハビリスが登場し、始めて石器を使い旧石器時代が始まった。彼らは本格的に道具     を使って狩りをした。後半では火も使っていた。

・190-150万年前、人類最初のハンターと呼ばれた原人ホモ・エルガスターが登場した。槍を使い集団で狩りをしたことから肉食獣よりも優位に獲物をとることができた。

・180万年前、原人ホモ・エレクトスが登場した。彼らは気候変動に直面して、獲物を追いかけるように人類初めての「出アフリカ」を行い、ユーラシア大陸へ移住した。ちなみにジャワ原人や北京原人はホモ・エレクトスの子孫と考えられる。

・60-13万年前、氷期が断続的に続いた。

・35万年前、ホモ・ネアンデルタール(以下、ネアンデルタール人)が登場した。

・20万年前、ホモ・サピエンス(現代人の祖先、以下、サピエンス)が登場した。

 人類は進化のたびにより高度な道具を発明していった。ホモ・ハビリスは初めて石器を使い、ホモ・エルガスターは槍を使い、サピエンスとネアンデルタール人の共通の祖先だったホモ・ハイデルベルゲンシスはハンドアックス(握り斧)やさまざまな道具を使うというように。

 14万年前、気候変動による何らかの壊滅的な出来事が起きて、多くの大型動物に加え幾つもの人類種が絶滅した。また9万年前には氷期となり、出アフリカの行き先だったレバント地方(アラビア半島の地中海に面した地域)が砂漠化した。それ以降レバント地方を通って出アフリカする人類はいなくなった。

 サピエンス以外の人類種はサピエンス登場以前に絶滅した。最後に残ったネアンデルタール人もヨーロッパにクロマニヨン人(サピエンス)が登場した4万2千年前から2千年後までの間に絶滅した。絶滅した原因はサピエンスとの獲物獲得競争に敗れたためと考えられる。クロマニヨン人は体形は華奢だったものの、長時間走り続ける能力を持ち、犬を使って狩りをしていたことが狩猟で優位に立った理由である。

 ここで驚愕の事実がある。DNA解析の結果、現代人にはネアンデルタール人のDNAが2.7%入っていることが判明した。さらに、ネアンデルタール人のDNAは全てが男性由来でミトコンドリアDNAはないことから、交配したカップルはネアンデルタール人の男性とサピエンスの女性だった。交配したタイミングは9-12万年前の出アフリカのときで、場所はレバント地方からコーカサス山脈の間の地域で、アフリカから移動したサピエンスとヨーロッパから南下したネアンデルタール人が遭遇した。レバント地方は9万年前に砂漠化したためにサピエンスは絶滅してしまうが、生き残ったネアンデルタール人の子孫たちが後にこの地方に来た別のサピエンスと交配し、その子孫がヨーロッパに渡ってそのDNAが現代人に継承されたと考えられる。

 現代の科学は9万年前に起きた事件をここまで詳細に解明している。これこそサピエンスの奇跡を象徴する物語であるといってよいだろう。

サピエンス進化の転機、ヤンガー・ドリヤス寒冷期

 1万2900年前から1万1500年前までの間は「ヤンガー・ドリヤス寒冷期」と呼ばれる。最終氷期が終わって温暖化に転じた1万年後の1万2900年前に急激な寒冷化(-15度)が起き、さらにその1400年後に急激な温暖化(+15度)が起きた時期を言う。またヤンガー・ドリヤス寒冷期以降を新石器時代という。ここで重要なことは、旧石器時代から新石器時代への進化は石器の変化ではなく、文化的な革命だった点にある。

 古代文明の研究家であるグラハム・ハンコックの仮説は次のとおりである。1万2900年前に北米大陸に巨大な隕石が衝突して北米大陸にあった厚さ3kmに及ぶ氷河が溶解した。これが「ノアの箱舟」に代表される世界中の大洪水伝説として語り継がれた「歴史上の大事件」だった。その衝突によって太陽光が遮断されて世界は急激に寒冷化した。そして1万1500年前には、再び隕石の落下があったが、恐らくは海に落下したため急激な温暖化を引き起こした。

 ※「神々の魔術、失われた古代文明の叡智」、グラハム・ハンコック、角川書店、2016.2

 グラハム・ハンコックの仮説の真偽はともかく、新石器革命は気候の激変に対処するためにサピエンスが定住生活を始めたことと関わっている。ヤンガー・ドリヤス寒冷期の急激な気候変化によって多くの大型動物が絶滅したために、食料を手に入れることが難しくなった。このときにサピエンスがとった定住生活という選択は、その危機に対処するための進化の一形態と考えられている。

 ここで、改めて考えてみたい。マンモスなどの大型哺乳類が絶滅するという環境激変の中でサピエンスだけが生存できた理由は何だったのかと。生物の進化の歴史を俯瞰してみると、新たな種はそれまでにはなかった新しい能力を獲得することによって危機を生き延びてきた。分かり易い例は鳥類で、恐竜が滅んでゆく一方で、空を飛ぶ能力を獲得した恐竜の種が鳥類として進化を成し遂げている。では同様に考えると、他の人類種が絶滅していった中でサピエンスだけが獲得した能力は何だったのだろうか。

 その答えは思考力である。他の動物が獲得してきた能力は全て肉体的なものだったが、サピエンスが獲得したのは脳の新しい使い方だったのだ。具体的には、自分自身と世界を理解しようとする好奇心であり、何故という疑問を抱く発見力であり、その疑問を解決する道具を生み出す発明力であり、それを実践する行動力だった。そして、その思考力は地上へ降りて二足歩行を始めた行動に帰着するように思える。

 「サピエンス全史」を書いたユヴァル・ノア・ハラリは「どんな動物も何かしらの言語を持っている。その中で虚構、すなわち架空の事物について語る能力こそが、サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている。」と述べている。

現代の危機を考える

 生物の進化を促進した力は、環境の激変だった。そのたびに動物は存続か絶滅かの危機に瀕し、危機を乗り越えて存続を果たした種は、新たな環境を生き延びるために必要な新たな能力を獲得した。人類がとった行動は地上に降りて二足歩行に移ったことであり、故郷を捨ててアフリカを出たことであり、さまざまな道具を発明したことだった。しかもそれらの選択の過程で獲得した根源的な能力が思考力だった。そしてヤンガー・ドリヤス期にその能力は新石器革命として花開いたのだった。

 今我々現代人が生きてあるのは、サピエンス誕生から20万年に及ぶ間に起きたさまざまな危機の全てを、祖先集団が克服してきた賜物なのだという事実を忘れるべきではない。我々は途中で絶滅して退場していった種の子孫ではなく、全ての危機を克服してきた勇者の子孫なのである。そしてサピエンスの継承者として我々が備えなければならないのは、生存か絶滅かというレベルの危機に対してなのだ。

 では、人口が増えテクノロジーが高度に発達した、「複雑系」と呼ばれる時代を生きている我々現代人は、現代におけるさまざまな危機を克服するための勇気と知恵と行動力を持ち合わせているだろうか。

 現在地球温暖化が騒がれている。今年8月9日に、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第6次評価報告書を公表した。それによれば、「気温の上昇幅は、過去からの累積CO2排出量にほぼ比例し、累積排出量1兆トンごとに約0.45度上昇する。産業革命以降に人類が放出した総排出量は約2.4兆トンであり、気温上昇を1.5度に抑えるためには、残り4千億トンの枠しか残っていない。」とし、さらに「産業革命前に対し気温が1.5度上昇すると、50年に一度の記録的な熱波が起きる頻度は8.6倍になり、海面上昇は55cm以上上昇する。」という。

 しかしながら人類誕生以来の地球で起きた気候変動は一桁違う。そんなレベルで人類が滅びることはないし、そもそも温暖化の原因が人間の活動にあるのかどうかも分からない。何故なら、IPCCの試算は地球の環境条件をモデル化して、さまざまなパラメータを仮定して行ったコンピュータ・シミュレーションに基づいているのだが、シミュレーションの常として、モデルのパラメータを少し変えるだけで全く異なる結果が得られるからだ。これに対して、地球の公転と自転に起因する気候変動と天変地異に起因する変動の幅が一桁以上大きいことは、人類登場以降の気候変動を見れば一目瞭然である。現にヤンガー・ドリヤス寒冷期の始まりには気温が15度も一気に低下し、終わりには一気に15度も上昇しているのだ。

 また現在コロナパンデミックのデルタ株の感染拡大が深刻化して、連日のトップニュースとなっている。医療機関の方には不眠不休のご尽力に感謝の一言しかないが、行政もマスコミも針小棒大に大騒ぎしているとしか思えない。視点を変えて、その理由を説明しよう。今回のウィルスが中国武漢の研究所で作られた可能性はかなり高い。8月末までに米国の情報機関はバイデン大統領に対しウィルスの起源について調査結果を報告することになっているので、それを注目したい。

 ただし問題は人為的に作られたのか否かにあるのではなくて、人為的にばら撒かれたのかどうかにある。少なくとも中国は武漢で患者が発生してから、春節の民族大移動が起きて感染者が世界中に移動するまで40日以上もの間発生を公表しなかったのだ。人為的にばら撒いたのか、それとも漏洩事故を政治的に悪用したのかは不明だが、人為的に拡散させたことは明白な事実なのである。

 そして今最も重要なことは、コロナよりも遥かに高い致死率を持つウィルスが人為的にばら撒かれる事態に備えることである。今回のパンデミックに学ぶべき最も重要な教訓は、ウィルス兵器が核兵器よりも遥かに甚大な被害をもたらす脅威となり得ることが明らかになったことと、その脅威が現実のものとなったことにあるからだ。

 ダン・ブラウンの小説インフェルノ(角川文庫)では、世界人口を大幅に削減するためのウィルスが人為的に作られてばら撒かれるという事態が描かれている。絶滅か生存かというレベルの危機はそういうものだろう。

 本日76年目の終戦記念日を迎えた。日本は現在、「戦争は二度と繰り返しませんから」という祈りの週間のさなかにある。戦争の犠牲者となった方々には心からご冥福をお祈りする他ないが、今日本人が直視すべきことは、日本の周辺国が皆核兵器保有国であるという現実である。特に中国は200発以上の核弾頭ミサイルを保有している。彼らが日本に対して核兵器を使用しないという保証はどこにあるのだろうか。政府はそのためにアメリカの傘があると言うのだろうが、そんな他力本願をいつまで続けるつもりだろうか。「中国は撃たないし、アメリカは助けてくれる」という誠に都合のいい仮定の上に日本の平和があることを忘れてはならない。生存か絶滅かという究極の危機の視点に立って日本の現実を眺めれば、「砂上の楼閣」あるいは「ダチョウの平和」というべき現状を続けることは、日本人が絶滅する種になることを意味しているのだ。

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