地球で起きた重大事件(1)

地球編

 宇宙の始まりと果てについては「奇跡の物語」として既に書いた。科学者でも専門家でもないが、公開情報をもとに、ここでは地球に起きた重大事件を「奇跡の物語」という視点から俯瞰的に書いてみたい。

 前編では「地球編」として、①太陽及び地球の誕生、②月の誕生、③海洋の形成、④酸素大気とオゾン層の形成、⑤超大陸の誕生と大陸移動、⑥地球磁極の逆転、⑦小惑星と隕石の衝突の7つを取り上げる。後編では「生物編」について書くこととする。

太陽及び地球の誕生

 太陽は、それ以前に存在し寿命を終えた超新星が爆発し吹き飛ばされた星間物質が再び収縮・合体して、およそ46億年前に形成された。超新星爆発を起源とする証拠は鉄よりも重い金属(金、ウランなど)が太陽系に多く存在していることにある。

 星間物質が収縮を始めてから1千万年程で原始太陽が誕生した。同時期に同じ星間物質から誕生した恒星(太陽の兄弟星)は1000以上あったという。実際にその恒星が二つ発見されていて、現在それぞれ地球から109光年と184光年のところに存在することが分かっている。

 地球誕生の物語はこうだ。地球は太陽の誕生から5千万年程後に微惑星が次々に衝突して誕生した。原始の地球は微惑星の絨毯爆撃による熱で融解しマグマの海となっていたが、2億年ほどの間に冷えて海洋や地殻が形成された。

 地球最古の岩石鉱物は44億年前のもので西オーストラリアで発見された。それは1ミリにも満たない「ジルコン」と呼ばれる粒子だが、ジルコン粒子はマグマから形成される鉱物であることから、この頃に地殻の形成が始まっていたことが分かった。さらに酸素の同位体の比率を分析した結果、水と反応していたことが判明し当時既に海があった可能性を示唆している。何とわずか1ミリの粒子からそんなことまで分かるとは誠に科学は偉大である。

月の誕生

 ところで月はどうして地球の衛星となったのだろうか。それを説明する仮説に「ジャイアント・インパクト説」がある。原始の地球に火星程(直径が地球の半分)の天体が衝突して、飛び散った岩石が重力によって再び結集して月が形成されたというものだ。但し地球と月の関係についてジャイアント・インパクト説では説明できない観測結果が一つあるという。

 それは、もしこの仮説が正しければ月の母体となったのは地球に衝突した天体ということになるが、一方アポロ計画で月から収集した岩石中の成分は地球のものとほぼ一致したというのだ。この矛盾を解明するために、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究チームはスーパーコンピュータを使ってシミュレーションを行い、巨大衝突が起きたときに地球の表面がマグマの海だったと仮定すると、月の岩石成分の問題を説明できることを立証した。以上が月誕生の物語である。

海洋の形成

 誕生直後の地球の表面は、微惑星の衝突エネルギーによる高熱で岩石が溶けたマグマの海に覆われていたことが分かっている。マグマの熱と大気中に大量に存在した二酸化炭素による温室効果で地表面は非常な高温となり、当時水は全て水蒸気として大気の中にあったようだ。

 その後2億年ほどの間に微惑星の衝突が減り、地表面の温度が下がって、やがて大気中にあった大量の水分が雨となって降り注いだ。それによってマグマの海は冷えて固まり44億年前に海が誕生した。その後も微惑星が衝突するたびに海は蒸発したが、38億年前頃には海が安定して存在するようになり最初の原始生命が海の中で誕生した。

 では水はどこからやってきたのだろうか。地球は水の惑星であり表面積の7割は海で、その深さは平均で3000mを越える。このように人間の視点から見れば海水の量は極めて膨大だが、地球の規模から考えれば重量比で僅か0.02%しかないのだ。

 地球の水は地球に衝突した小惑星などが運んできたとする考え方が現在の主流のようだ。水の分子を構成する酸素や水素が岩石の成分として組み込まれていて、衝突した時に分解して水が生成されたと推定される。微惑星が地球に衝突した数が膨大であれば、海水を作るに十分な水が供給されたことになる。そもそも気圧が低い宇宙空間に液体の水はなく、太陽に近すぎる地球の位置では氷が存在できないため、地球にはもともと水はなかったという。

 こうして海洋が形成されて海洋生物が繁殖する環境ができたのだった。

酸素大気とオゾン層の形成

 シアノバクテリア(藍藻)は25~30億年前に地球上に現れた、光合成によって酸素を発生する最初の生物だった。海洋誕生後の大気組成は二酸化炭素、窒素、水蒸気が主体であった。

 原始の地球の海に発生したシアノバクテリアは数億年以上をかけて光合成を行い、合成した有機物と酸素を海中に大量に供給した。光合成を始めた当初は、酸素はメタンやアンモニア、それと海水中の鉄を酸化することに消費された。やがて海中で吸収しきれないほどに酸素が供給されるようになると、溢れた酸素が大気中に放出されて大気の酸素濃度を急増させた。

 さらに、原始の大気には紫外線を吸収する物質がなかったので、地上まで強い紫外線が降り注いでいた。酸素濃度が上昇すると、高度10-50kmほどの成層圏にオゾン層が形成された。オゾン層によって有害な紫外線が吸収されるようになったため、それまでは海中でしか生存できなかった生物が陸上に進出して生物の多様化が一気に進んだ。

 5.4~5.3億年前に「カンブリア爆発」と呼ばれる生物種の大発生が起こったが、大気中の酸素濃度が上昇したことと紫外線を遮断するオゾン層が形成されたことがその背景にあると言われている。これが大気の生成と陸上生物が誕生した物語である。

超大陸の誕生と大陸移動

 ジルコン粒子の発見から、44億年前には既に海と陸が形成されたと考えられている。超大陸は20億年程前から4~5億年ごとに形成されたことが分かっている。ヌーナ超大陸が約19億年前、ロディニア超大陸が10-7億年前、ゴンドワナ大陸が6億年前に形成された。

 最も新しい超大陸パンゲアは2.9億年前頃に形成されたが、2.5億年前頃から分裂が始まって現在の6大陸に分かれた。2.5億年前には史上最大規模の生物の大量絶滅事件が起きており、パンゲア大陸の分裂が深く関わっているという。

 大陸移動は1年で数cmととても僅かな量だが、1億年の間には数千kmになる。大陸移動は現在も進行中で、現在全ての大陸はアジアに向かって移動していて、5000万年後にはオーストラリアが日本列島に衝突し、その後2~3億年後にはアフリカとアラビア半島に続き、アメリカ大陸もアジアと合体し、再び超大陸が形成されると予測されている。

 地震や火山が起こる原因は悠久の時間で移動する大陸にあり、大陸が移動するのは地球内部から熱エネルギーを供給されていることによる。核融合を行っている太陽とはメカニズムが異なるものの、地球も活動中の星なのである。

地球磁極の逆転

 ダイナミックな地球の動きには、もう一つ重要なことがある。それは地球の磁極の南北が反転する「磁極逆転」である。地球は巨大な磁石だが、それは地下2900kmほどの深さにある地球の外核の中を、強い磁性を持つ液体の鉄とニッケルが流動しているからだ。

 アメリカのナショナル・ジオグラフィック誌は2019年10月に「岩石に刻まれた記録から、5.5~5.6億年程前に平均で4万年に1回の頻度で磁極逆転が起きていて、ちょうどこの時期に生物の大量絶滅が起きている。さらに現在から過去2000万年の間には約20~30万年に1回の周期で逆転が起きていたが、最近の78万年には起きていない。」との研究成果を掲載した。

 またフォーブズ誌は2018年3月で「ここ数十年の間、地球の磁力は10年に5%ずつ弱まっていて、次の磁極逆転が近づいている可能性がある。」という記事を掲載した。地球の強力な磁場がバリアとなって有害な宇宙線が地表に降り注ぐことを防いでいるが、もし磁極が消滅すれば陸上生物は危険な宇宙線に被爆することになり、大量絶滅が起こる危険性がある。

小惑星・隕石の衝突

 地球が誕生した頃、惑星やその衛星、周回彗星や小惑星などが固有の軌道を形成しながら、太陽系全体の形と秩序が徐々に出来上がっていった。「エントロピー増大と秩序」について書いたように(Chronicle/401)、太陽系全体が主に重力作用によって形成された一つの秩序なのである。

 流れ星と異なり、地表面に落下する隕石は1913年~2013年の100年間に地球全体で600回以上確認されており、未確認のものを含む総数は年平均で40回程度あると言われている。隕石の多くは火星の外側の領域(小惑星帯)からやってくる。

 そして約6600万年前にはメキシコのユカタン半島に直径10-15kmの小惑星が衝突した。衝突時のエネルギーは広島型原爆の約10億倍といわれ、この衝突によって生物種の70%が絶滅し、恐竜の時代が終わったことが分かっている。

 大気や海洋、大陸の形成は地球初期の物語だが、磁極の逆転と小惑星や隕石の衝突はこれからも起こり得る、かつ新たな生物の絶滅を招く危険性があることを付け加えておきたい。

奇跡の物語(地球編)まとめ

 以上、地球に起きた7つの重大事件について書いてきた。これらの事件から地球の歴史を俯瞰すると、「奇跡の物語」と形容する他ない真相が二つ浮かび上がる。その一つは、地球環境の激変に翻弄されそのたびに絶滅の淵に追い込まれながら、生物は進化を繰り返して生命をつなぎ繫栄してきたことだ。現代に存在する全ての生物は、一つの例外もなく、絶滅の危機を乗り越えてきた生物の子孫なのである。

 もう一つは、より生存に適したものとなるように、生物が長い歳月をかけて地球環境を変えてきたことだ。その象徴的な存在がシアノバクテリアで、数億年以上の歳月をかけて現在の海洋と大気を作り「青い地球」を作ってきた。さらに、その後の植物の繁茂が地球を「緑の惑星」に変えてきた。

 サピエンスはその壮大なドラマの最後に登場した生物だが、サピエンスは地球環境の最大の利用者となり、環境汚染や温暖化が象徴するように、むしろ破壊者として振舞ってきたのではなかっただろうか。同時に、そのサピエンスが科学を発展させて地球46億年の歴史に封印されてきた「生命と地球の共進化」の物語を解明してきたことも事実である。 科学が解き明かした地球の「奇跡の物語」を、生命のバトンリレーの現役走者として、サピエンスはこれから地球とどう共進化してゆくのか、改めて知恵を絞る必要があると思うのである。

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