独裁者が変える世界(1)中国

 地震予知がそうであるように、事件がいつどこで起きるのかを予測することはできないが、複数の視点から観察・分析した情報を統合して、全体像を探り本質を考えるOSI(Open Source Investigation/Intelligence)によって、どこでどのような事態が起きるかを長期的に予測することは可能である。

 戦後80年が経過し、アメリカがイスラエルに加担してイラン攻撃を行ったことによって、第二次世界大戦後に築かれた国際秩序は灰燼と化した。そもそも4年前にロシアが行ったウクライナへの軍事侵攻は、国際秩序崩壊の第一幕の事件だった。日米首脳会談における高市首相の発言ではないが、世界の動乱を止める力を保有するのは現在でもアメリカ以外には存在せず、ウクライナ戦争を終結させることができるのはアメリカをおいて他になかったのである。

 何故ならロシアもアメリカも国連安保理常任理事国であり、ロシアに勝る軍事力を保有するのはアメリカ以外に存在しないからだ。そのアメリカがいきなりイラン攻撃の当事者となったのであるから、この日をもって国際秩序は跡形もなく吹き飛んだのだと肝に銘じる他ないのである。

 国際秩序が崩壊してしまった今、これから世界は何処に向かうだろうか?ある意味で世界は暗闇の中に放り込まれたのであって、持てるインテリジェンスをフル稼働して的確な状況判断と長期予測を行い、最悪の事態に戦略的に備えなければならない。

 現代社会において世界に大きな影響を及ぼしている国は、米中露の三ヵ国である。何れもが核兵器保有国、軍事大国、かつ安保理常任理事国である。この三ヵ国は、国際秩序を無視して力を行使することを躊躇しない点でも共通する特性を持っている。戦後80年の現在、その三ヵ国が世界全体を揺るがす歴史的な変化を起こしつつある。一方で三ヵ国は共通する脆弱性を抱えている。

 本資料では三部作で長期予測を試みる。はじめに中国である。

崩壊前夜の中国

 結論を先に言えば、中国経済は崩壊前夜にある。その理由を一言で言えば、不動産バブル崩壊による不良債権を解決できないことにある。

 不良債権処理ができない理由は二つある。一つは途方もない巨額であることだ。中国の債務規模について信用できる数値がないのだが、中央政府、地方政府、国有企業、個人を合算した債務は400兆元(米ドル換算で約60兆ドル、日本円換算で約1京円)という途方もない規模に上る可能性が高い。日本のバブル崩壊で発生した不良債権が約100兆円だった事実と比べると、実に二桁も違う規模なのだ。

 一説によると、中国の総人口14億人に対して、新築マンションを中心とする空室が30億人分も存在するという。近年、中国各地に高層ビルのマンション群が多数造成されてきたが、入居者がいないばかりか、建設途中で放棄されてゴーストタウンと化した事例も多い。

 不良債権処理ができないもう一つの理由は、そもそも不動産の不良債権は習近平の政策がもたらしたものだからだ。国家及び地方政府の失政を認めることになるために不良債権処理を実行することができないのである。その結果、習近平政権はこの国難を乗り越える対策を講じることができず、巨大な時限爆弾が爆発するのを傍観する他ないのだ。

 習近平政権は経済の他にもう一つ深刻な問題を抱えている。それは3年にわたって軍の幹部を容赦なく粛清してきたという異常事態だ。そして今年1月末には、とうとう軍のトップである張又侠・中央軍事委員会副主席と劉振立・統合参謀部長が粛清された。2023年以降、ロケット軍、装備部・海軍・武警に及んだ粛清ラッシュが、軍のトップにまで及んだのである。

 軍が汚職まみれなのか、それとも習近平の軍に対する猜疑心が底なしなのか、何れが真相に近いのかは分からない。何れにせよ、張又侠は習近平と並ぶ「紅二代」に位置する超エリートであり、これで習近平は四大派閥(紅二代、太子党、共青団、上海閥)の全てを弱体化させたことになる。孤高の独裁者になったという意味で、この事実は重大である。(資料1参照)

 こうした中国の現状を踏まえて、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)は2027年に開催される第21回全人代前に習近平が退陣する可能性を70%と予測し、ランド研究所は2027年に内戦が起きる可能を40%と予測しているという。(資料2参照)これが中国の実態である。

データが物語る中国経済の実情

 ここで中国経済が既に崩壊前夜にあることを示すデータを整理してみよう(資料2~6参照)

①恒大集団・碧桂園の倒産後、300社の不動産企業が連鎖倒産した。総額1兆ドルの貸出損失を抱える銀行業界が危機に直面している。

②中国のGDPデフレータ(※)が2025年末まで11四半期連続でマイナスとなった。つまりほぼ3年間、中国経済はデフレ状態にあることを示している。

※所定の期間に国内で新たに生産された全ての財・サービスの価格変動を示す指標で、名目GDPと実質GDPの比から算出される物価指数

③毎年労働市場に約1200万人の若者が参入してくるが、若年層の失業率は18%台で高止まりしている。20%~40%という数値もある。「卒業即失業」と言われる現実がある。

④地方政府の負債は15兆ドル(約2,300兆円)でGDPの120%を突破した。

⑤名門大学を出て運よく就職できたとしても給料3万円という現実がある。仕事がなくて帰郷する若者は200万人に及ぶ。無気力な“寝そべり族”が増加し、都会と田舎の間には極端な収入格差がある。

⑥中国の公式発表によれば、2025年の経済成長は4.9%を実現したというが、現在中国社会では、内需不振、不動産富豪たちの間で流行していた富の誇示現象の消滅、MZ世代(※)の若者たちが「貧乏人セット」で食事を済ませる等、超節約消費が流行している。

※ミレニアル世代とZ世代をまとめた世代で1980年代前半~2010年代前半生まれ

⑦2025年の出生数は792万人で、前年比で17%減少し、2024年までの10年間で婚姻数は53%減少した。この数字だけでも絶望的という他ない。

 資本主義であろうと共産主義であろうと、ひとたびバブルが崩壊したら不良債権を処理しない限り健全な経済は戻ってこない。バブル経済において最後の貸し手となった債権者が抱える不良債権が紙くずとなる日が必ずやってくる。しかも最期の貸し手となったメガバンクを救済できるのは政府だけであり、もし救済せずに放置すれば銀行が破綻し、経済全体が麻痺する事態となる。一方経済を救おうとすれば、政府がメガバンクを救済する以外に打開策はないのだが、その場合巨額の不良債権を公的資金(つまり税金)で処理する他ない。

 しかし400兆元と予測される空前の規模の不良債権を処理しようとすれば、国家がデフォルトを起こすことになるだろう。正しく「山高ければ谷深し」なのである。中国政府の決断が迫られる時が間もなくやってくる。

様変わりした全人代

 今年3月に「第14回全国人民代表大会」が開催された。ジャーナリストの福島香織氏によれば、「全体として李強首相の薄い存在感、濃い習近平の独裁色、人民解放軍の影響力の縮小が印象深かった。」という。中でも特に注目されたことが三つある。

 その第一は、習近平が「党の軍隊を習近平の私軍へ転換する」ことを公然と宣言したことだ。

 第二は、鄧小平以来の「集団指導体制」が崩れ、習近平が全ての決定権と責任を負い、国務院も解放軍も習近平の指示に唯々諾々と従う体制へ移行することが明らかになったことだ。(資料7参照)

 そして第三は、不良債権処理を巡る方針だ。会議後の記者会見で、中央政府の財政が火の車であることを藍仏安財務大臣が赤裸々に語っている。それによると、地方政府から大手国有銀行へ不良債権の連鎖をくい止めるため、3000億元(6.9兆円)の借り入れを決めたものの、手当ての目途(つまり財源)が立っておらずケチケチ財政で臨むと心中を吐露している。

 これは見方を変えれば、「国有銀行は救済するつもりだが地方と個人は見捨てる」と宣言したことを意味しており、くすぶってきた不良債権問題に火をつけることになりかねない。さらに政府にお金がないために従来の経済成長を諦め、景気刺激策を放棄し、経済から資金を引き上げることを暗示している。これは消費者対策を放棄し末端の不良債権保持者を見捨てると宣言したことに他ならない。

 しかももっと重大なことは、中国が抱える不良債権は、前述のとおり3000億元のレベルでは到底済まないことだ。

 また2026年からの5ヵ年計画では数値目標を置かないことが決まった。これは従来の経済成長を放棄することを意味する。(資料6参照) このように、従来は経済と財政の実態を隠してきたのだが、もはや虚飾することができなくなったことを物語っている。

現実味を帯びてきた習近平体制崩壊

 元陸将の福山隆氏がJBPressに中国で進行中の事態について興味深い分析をしているので紹介したい。福山氏は「軍は統治の根幹である。その軍を大規模に粛清せざるを得ない状況は、習近平体制の弱体化を示す明確なシグナルである。すなわち、これは中国の権力構造が内部から崩れ始めた兆候である。」と述べている。(資料1参照)

 さらに、国際政治評論家の宮崎正弘氏が「今回の軍政中枢の体系的粛清は明朝末期の崇禎帝とそっくりだ」と論評していることを踏まえて、福山氏は次のように述べている。「明朝最後の皇帝に倣うように、習近平は猜疑心から有能な将軍・官僚を次々と粛清し統治基盤を自壊させてきた。権力の過度な集中と粛清の連鎖は、組織の機能不全と統治者の孤立を招く≪歴史的に繰り返される崩壊パターン≫の再現だ。」

 そして今後、情報遮断と統治者の孤立、軍の士気崩壊、財政破綻、組織の自壊、最終的な孤立というステップを経て、中国共産党独裁政権が崩壊に向かう可能性が高い。前述した今年の全人代の状況は中国の財政破綻がそう遠くないことを物語っている。

 トランプ政権が相次いで公表した国家安全保障戦略(NSS)と国家防衛戦略(NDS)の中で、アメリカが現在の中国をどう認識しているかについて、福山氏は次のように述べている。

 トランプ政権はまず今後の中国を「体制的脆弱性を抱えた戦略的競争相手」と見なし、経済減速、社会不安、軍の腐敗、統治の不安定化リスクを前提にした対中戦略を描いている。次に「長期的に崩れ得る国家」と見なし、対中依存の縮小、サプライチェーン再編、軍事抑止の強化を同時並行で進めている。さらに「中国が崩壊しても巻き込まれない体制」の構築へ戦略を再編している。(資料1参照) 興味がある方は、是非原文を参照していただきたい。

IMFの勧告

 中国の経済危機に関しては、国際通貨基金(IMF)も警鐘を鳴らしている。IMFは2月19日に中国の貿易黒字が1.19兆ドルに達しており、中国との貿易不均衡が「容認できないレベル」だとして、異例の勧告を発した。

勧告の要点は次のとおりである。(資料8参照)

①主要産業部門企業に対する産業補助金を半減させること(GDP比4%→2%)

②不動産低迷対策に3年間でGDP比5%を投入すること。

③「消費主導」の成長モデルへ転換すること。

 経済の現状が「需要不足」であるにも関わらず、中国政府がとってきた政策は「生産拡大、輸出拡大」であるから、これらの三項目について中国が簡単に同意するとは思えない。

張又俠の遺言書

 今年1月末に事実上粛清された張又俠中央軍事委員会副主席は、粛清されることを予知して、「私に何かあれば公開せよ」と記した手紙を残した。それが海外メディアに流通した。それによると、張又俠は習近平の軍運営を「私兵化」と断定し、2024年6月に実行されたロケット軍司令官だった魏鳳和の粛清は、「台湾侵攻反対派の排除」を目的とした政治的策略であったと暴露した。台湾侵攻を想定した、南部戦区の兵力50万人と空母3隻を動員する「奇襲攻撃」構想に対しては、「中国の崩壊を招く」と強く反対し、劉亜洲元中央軍事委員会副主席の分析を引用して、戦争が中国のGDPの70%を喪失させると警告した。

 さらに2027年10月に開催される「中国共産党第21回全国代表大会」前に、習近平は今季限りで退任せよと諫言している。張又俠が遺言書を残したのは、差し違える戦いを挑んだということだろう。それが世界中に公開された以上、タダでは済まないということだ。(資料9参照)

まとめ

 以上述べてきたように、客観的事実が物語る中国の現状は既に危機発生前夜の混乱の渦中にあると言っていい。中国政府は第二の天安門事件の発生防止を警戒しているが、それよりも外部から強い圧力が働けば、危機の発生が早まることが予測される。トランプ政権からのさまざまな圧力は固より、ウクライナ戦争の長期化とロシアの衰退、ベネズエラの政権転覆、イスラエル・イラン戦争の長期化、それによるエネルギー価格の高騰と世界レベルのインフレは、何れもが強い外部圧力となり得るものだ。

参照資料

1.「中国軍中枢の連続粛清が示す構造的危機」、福山隆、JBPress、2026.1.30

2.「習近平時代終わる」、荒巻俊、Kangnamtimes, 2026.2.23

3.「Youtube動画が映し出す中国のもう一つの真実」、勢古浩爾、2026.1.6

4.「中国経済はもう終わりだ、5%成長の裏で進む抜け出せない崩壊」、荒巻俊、Kangnamtimes、2026.1.19

5.「中國経済停滞 構造的な歪み一段と深まった」、読売新聞、2026.1.21

6.「中国経済のデフレ化」、新経世済民、三橋貴明、2026.3.23

7.「中国のドケチ予算、経済成長と消費者に痛み暗示」、Wall Street Journal、2026.3.12

8.「中国・全人代で習近平は何を語った?」、JBPress、福島香織、202.3.12

9.「IMFが中国に異例の圧力 産業補助金を半減せよ」、Kangnamtimes、2026.2.20

10.「私が逮捕されたら公開せよ」、Kangnamtimes、2026.2.9

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