ウクライナ戦争はどういう形で終結するだろうか?
3月2日の国連総会緊急特別会合で、ロシアに対する非難決議が賛成141、反対5、棄権35で可決された。3月16日には国際司法裁判所がロシアのウクライナ侵攻をめぐる審理を開き、ロシアに侵攻を即時停止させる仮保全措置を命じた。仮保全措置命令に法的拘束力はあっても命令を施行する直接的な手段はないが、これによりロシアによる戦争犯罪が確定的となった。
侵攻から1ヵ月が経過して、ロシア軍の敗色が次第に濃厚になってきた。ウクライナに投入された兵力の約1割が既に失われ、将官20人の内中将をトップに5人が死亡したという。破壊された装備の数もおびただしいようだ。3月24日には首都キエフの北東で待機していたロシア軍をウクライナ側が後退させたことをメディアが伝えている。今やウクライナ、ロシアの双方が停戦合意を希求する展開となってきた。
何故そうなったのか。背景にはプーチンの幾つかの読み誤りがある。第一に、プーチンは短期間でウクライナを制圧できると考えていた。ゼレンスキーを追放して親露政権を樹立すればウクライナ国民の賛同が得られると考えていた。しかしながらプーチンの思惑は完璧に外れた。侵攻は長期化・泥沼化し、「引くも地獄、進むも地獄」という展開になった。
第二に、米欧日による経済制裁がプーチンの想定を遥かに超えて破壊的だった。経済制裁の結果、既にルーブルは半減以下に暴落し、インフレ率は20%を超えて店舗の商品価格が日に日に書き換えられているという。さらに、外貨不足の中でロシア国債のデフォルトは時間の問題となっている。
第三に、ロシア国内でも反プーチンの動きが拡大してきた。3月14日夜、ロシア国営テレビの生放送のニュース番組中に、テレビ編集局員のマリーナ・オフシャンニコワが、「戦争を止めて、プロパガンダを信じないで」と書いた紙を持って抗議活動を行った。また、ロシア兵士の母から「息子と連絡が取れない」とロシア最大の女性人権団体である「ロシア兵士の母の委員会連合」に問い合わせが殺到した。無視できなくなったプーチンは、3月8日の「国際女性の日」に向けたメッセージで「志願兵はウクライナでの特別な軍事作戦には動員されていない」と白々しい嘘をついたが、その直後に国防省は、徴兵された兵士がいて多数が捕虜になっている事実を認めた。ロシア兵の死者は1万人前後にまで増加していて、もはやプーチンの虚勢と嘘はごまかしきれなくなっている。
ロシア国内の動揺は政府中枢にも及んでいる。大統領特別代表を務めていたアナトリー・チュバイス元第1副首相が3月23日までに辞任した。
さらに、プーチンが部下と会談をしている二枚の写真が世界の注目を集めた。二枚の写真に共通しているのはプーチンと部下たちの間の距離が異様に(恐らく10メートル以上)離れていることだ。部下が自分に反逆することをプーチン自身が極度に警戒している緊迫感が伝わってくる。
最近ロシアの敗退を予測する分析記事が増えている。国際ジャーナリストの山田敏弘はJBPressに3月22日、『プーチンが敗れた情報戦、もう爪を隠そうとしなくなったファイブアイズ』と題した記事を書いている(※1)。著者の論点は英米との情報戦においてロシアは負けていたというものだ。具体的にいえば、米英の情報機関(米国のCIA、英国のMI6等)は昨年秋にはこの戦争が起きることを察知していて、ウクライナ政府を支援しつつ事前準備をしてきた。その上で、情報収集・分析能力を知られることを承知の上で、ロシア軍の動静に関わる的確かつ刻々の情報をウクライナ軍に伝えてきた。これがロシア軍の被害拡大と戦意喪失に大きく寄与しているという。
〔※1〕https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69381
また、国際ジャーナリストの木村正人はJBPressに3月21日、『プーチンかく敗れたり』と題した記事の中で、米国の戦争研究所(ISW)と英国の王立防衛安全保障研究所(RUSI)の視点を踏まえた戦況の分析を伝えている(※2)。各論は省くが、「ロシアは最近6~7年、極めて日和見主義的に軍を動かしてきており、プーチンの日和見主義的なギャンブルが失敗を招いた。」という指摘は注目に値する。あたかも欧米の挑発に衝動的に反応したかのように、作戦計画も兵站も充分に練られないまま軍事侵攻に踏み切ったことを示唆している。
〔※2〕https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69370
立命館大学教授の上久保誠人は3月23日のダイヤモンドオンラインに、『プーチン保身でロシア国内総崩れ?有事に崩壊する権威主義体制の弱点』と題した記事を書いている(※3)。この中で「ロシアのような権威主義的体制の国は、指導者は絶対に間違わないという≪無謬性≫を前提としているために、有事の際に機能不全に陥る。」と本質を突いた指摘をしている。加えて、「ウクライナ紛争が明らかにしたことは、権威主義の弱点とは対照的に、自由主義体制は強かな強さを持っていることだ。」と述べている。
〔※3〕https://diamond.jp/articles/-/299736
さらに、ウクライナ国防省の情報総局長が、3月20日のフェイスブックに次のように書き込んで世界の注目を集めた。「ロシア政財界のエリート層の中に反プーチンを掲げるグループが形成されている。このグループはプーチンの暗殺を目論んでいて、後継者の候補も決めている。目的はウクライナ戦争で失われた西側諸国との経済的なつながりを回復させることだ。」と。この種の情報は、両者間で行われる情報戦の一つと捉えるべきだが、ロシアがそこまで追いつめられている様子がうかがえる。
ウクライナ侵攻から1ヵ月が経過したが、以上の事情から双方が一日も早い停戦合意を希求する状況となっている。その行方について、BBCニュースが3月17日に『戦争の合意は双方にとって満足できない形で終わる』という記事を書いている(※4)。
〔※4〕https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-60761622
ゼレンスキーにとって譲れない一線は、ロシアの一地方ではなく独立国家としての地位を獲得することであり、プーチンにとって譲れない一線は、ウクライナがNATOに加盟しない「中立化」であると言われている。しかし実際に交渉が難航している理由は、プーチンのメンツを立てるためにロシア側が「無条件降伏」と「非武装」の要求を取り下げられないからだという。正しく専制国家の無謬性を象徴するものだ。
ウクライナ戦争とは何だったのか?
現在進行中のウクライナ戦争を理解するためには、ソヴィエト連邦崩壊にまで歴史を遡る必要がある。1945年に第二次世界大戦が、米英ソが戦勝国という形で終結した。そして米ソ冷戦が始まり、1989年11月9日に「ベルリンの壁」が崩壊した。1991年12月21日にはロシアを含む12共和国がソヴィエト連邦に代わる新しい枠組みとして独立国家共同体(CIS)の設立を宣言してソヴィエト連邦が消滅した。
その後ソヴィエト連邦から独立した諸国がEUとNATOに相次いで加盟し、ロシアは次第に孤立していった。プーチンはベラルーシ、ウクライナをロシア圏と捉えており、2014年のマイダン革命を転換点としてウクライナがEUとNATO加盟を目指すようになったことが、今回の軍事侵攻の直接の要因となったことは周知のとおりである。しかしながらソヴィエト連邦崩壊後の歴史を俯瞰すれば、大きな歴史の流れに逆らっているという意味で、プーチンのウクライナ侵攻は大きな風車に槍を持って立ち向かってゆくドン・キホーテの姿と重なる。
結局、ウクライナ戦争とは何だったのか。まだ終結までの道のりは遠いことは承知の上で思考を巡らせてみたい。はじめに、欧州の視点を産経新聞から引用する形で幾つか紹介する。
ロシア外務次官だったゲオルギー・クナーゼは、ウクライナ侵攻が起きた理由について次のように分析している。第一に独裁体制が長期化しロシア帝国の再興を夢想するプーチンを誰も止められなくなった。第二に2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア半島併合の時に欧米が厳しい対露姿勢を示さなかったことが今回の暴走の一因となった。
フィンランドの首相だったアレキサンドル・ストゥブは、ウクライナ戦争がもたらした変化について以下のように分析している。第一に、欧州は戦争状態にある。欧州の安全保障は根本的に変容し、大きな転換期に直面している。第二に、プーチンはNATOの分裂を望んでいたが、NATOはロシアの侵略と戦うという本来の任務に戻り、結束を固めている。第三に、ロシアは今後経済的に孤立し、北朝鮮のような存在になるだろう。
国家基本問題研究所主任研究員の湯浅博は「プーチンが核の恫喝を口にしたことにより、世界は手負いの熊がいかに危険かを理解した。NATOは本来のロシア封じ込め戦略へと引き戻された。」と述べている。
欧州各国は現在、固唾を呑んでウクライナ情勢を見守っている。ウクライナには戦い抜いてもらいたいと願い、そのために武器などの援助と難民の受け入れの面で支援を惜しまない一方で、国防費をGDP比2%超に引き上げ、軍事力の強化に取り組んでいる。凶暴な熊だったロシアが冬眠から再び覚めたと、欧州諸国は大急ぎで体制を再構築しているのである。
ウクライナ戦争がいつどういう形で終結するかは予測できないが、強力な制裁の結果、ロシア経済が破滅に向かう過程で、独裁体制を拒否する国民の運動がロシアの民主化をもたらすことを期待したい。歴史観として俯瞰すれば、この動き次第ではソヴィエト連邦崩壊に続く、第二幕としての「ロシア崩壊」が起きる可能性があるのではないだろうか。20世紀の古い国家観を持った生き残りとも言うべきプーチンは、ソヴィエト連邦崩壊の歴史的意味を理解していなかったか、或いは容認できなかったために、第二幕のロシア崩壊を引き起こそうとしているのだ。
結局ウクライナ侵攻は、NATOを蘇らせ、中立を貫いてきたロシアの隣国フィンランドやスウェーデンのNATO加盟を促進し、今までロシアの友好国だったウクライナ他の国々を西側に追いやる変化の序章となるであろう。プーチンはロシアをさらに強大な国家としロシア圏を強固な同盟として強化したいと考えたのだろうが、ウクライナ侵攻の結末としてロシアは弱体化し、恐らくは一回り小さな国に転落してゆく可能性が高い。一方ウクライナはEUに加盟してEU・NATO体制は拡大する結果となるだろう。
さらに俯瞰して考えれば、21世紀の現代では、ロシア型国家、即ち20世紀の古い価値観と専制主義国家の構造を持ち、主力産業がエネルギーで、国際社会で競争する技術と産業育成に後れを取った国家は、衰退を余儀なくされるということだ。1991年のソヴィエト連邦崩壊とこれから起きるであろう2022年のロシア崩壊という事件は、「国際社会における自然淘汰」として歴史に記憶されるのではないだろうか。
中国にどういう影響を与えるだろうか
ウクライナ侵攻は、国際ルールを公然と無視する20世紀型の専制主義国家が軍事力を行使して他国を侵略する危険が、歴史に未だ封印されていなかったことを世界に知らしめた。
専制国家という点でロシアと中国は同じである。中露のリーダーが20世紀の古い価値観の持ち主で、力の信奉者でもある。プーチンのロシアが自然淘汰される「種」であるならば、中国は規模から考えれば恐竜であろう。従って、進化論の視点に立って考えれば、中国も専制国家であり続ける限り、そう遠くない未来に淘汰される場面を迎えることが予測される。
21世紀の国際社会は、政治や宗教/イデオロギーの形態に関わらず、グローバル経済ネットワークに世界中の国が呉越同舟の形で参加する集合体を成している。そしてこの構造は、ソヴィエト連邦時代から現在のロシア時代に至る過程で起きた「国際社会の進化」と捉えることができるだろう。
そう考えると、ロシアの失敗はプーチンの時代錯誤と判断ミスに帰着するものの、進化から取り残されたロシアの国家体制に真の原因があるとみることもできる。
トランプ前大統領はグローバル経済ネットワークから中国を排除しようとしたが、バイデンになってその動きはトーンダウンした。現代ではどのような政治形態であっても、グローバル経済ネットワークから鎖国して存在することはできない。今般、ウクライナ侵略に対しG7が結束して経済/金融制裁をロシアに対して行ったが、ある意味で軍事攻撃よりも壊滅的な破壊力となることを実証した。この教訓は今後、第三国に対する武力侵攻を試みようとする国に対し強い抑止力として働くことだろう。
中露は北京オリンピックの開会式だった2月4日に首脳会談を行っている。会談の合意内容については、福島香織が3月17日にJBPressに『これではできない台湾武力侵攻、プーチンの失費で大誤算の習近平』と題した記事を書いている(※5)。その後の情報と合わせてこの会談を振り返れば、プーチンは習近平にウクライナ侵攻を予告していて、それに対して習近平は北京オリンピック終了まで実施しないよう要請していたことが推測される。その上で、両国は「中露の新型国家関係は冷戦時代の軍事政治同盟関係を超越し、両国の友好には終わりがなく、協力にはタブーがない、・・・」という共同声明を発表した。
〔※5〕https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69316
この時点でプーチンは短期間でウクライナを制圧できると考えていたわけだが、実際はウクライナ侵略が膠着状態に陥っただけでなく、逆にロシア経済が破綻の縁に追い込まれる展開となった。これは習近平にとって大誤算だったに違いない。中露の新型国家関係というシナリオは、中露首脳会談から1ヵ月余で、プーチンと運命を共にして絵に描いた餅になりそうだ。
ウォールスリートジャーナル誌は3月18日に、朱鎔基元首相ら引退した共産党幹部が習近平の国家中心主義の経済政策に疑問を抱いていて、習近平の三期目に反対していることを報じている。三期目を阻止したい勢力からすれば、2月4日の中露共同声明と、泥沼化しつつあるウクライナ情勢は習近平に対する格好の攻撃材料となるに違いない。
また、中国・上海市共産党委員会の幹部養成機関に所属する政治学者、胡偉が『ロシアとウクライナの戦争の起こりうる結末と中国の選択』と題した論文を3月13日にインターネット上で公表して、世界から注目を集めた。胡偉は「プーチン大統領の短期決戦は失敗し、欧米の制裁でロシア経済が深刻な影響を受け、ロシアの大国としての地位は終わりを迎えるだろう。アメリカは再度、西側世界の主導権を獲得し、西側内部はさらに団結し統一していく。」と指摘している。
ウクライナ戦争は世界をどう変えるだろうか
3月23日にゼレンスキー大統領が国会で演説を行った。ゼレンスキーは「今回の戦争で、国際機関も国連安保理も機能しなかった。改革が必要だ。予防的に全世界の安全を保障するための仕組みが必要だ。既存の国際機関が機能していないのであれば、新しい予防的な仕組みを作らなければならない。本当に侵略を止めさせるような仕組みだ。日本のリーダーシップは、新たな仕組みを作るために大きな役割を果たすだろう。(訳文は産経3月24日紙面から引用)」と述べた。
国連安保理は第二次世界大戦の戦勝国が常任理事国となって形成された。その後崩壊したソヴィエト連邦に代わりロシアが、中華民国を排除する形で中国が常任理事国となった。ゼレンスキーが示唆したように、ウクライナ侵攻に対し安保理が機能しなくなった最大の理由は、専制主義のロシアと中国が拒否権を持っていることに帰着している。大戦後に作られた古い体制(つまり『戦後スキーム』)を刷新しなければ、今後中国が国際秩序を踏みにじって台湾に侵攻しても、非難するだけで裁くことができない状況が再び現出することが明らかだ。
国内の『戦後スキーム』からの脱却を未だ成し遂げていない日本が、国内及び国際社会の戦後スキームを刷新することにリーダーシップを発揮することは、日本の役割であり使命であるに違いない。但しその役割・使命を担うためには、それに相応しい能力を獲得しなければならない。役割・使命・能力、合わせてRMC(Role, Mission, Capability)はセットなのだ。
ゼレンスキーが日本に期待した役割と使命を担うための能力を取り戻すことが、日本が『戦後スキーム』から脱却する第一歩となるのだと思う。
神戸大学院教授の蓑原俊洋が書いた『パクス・アメリカーナの岐路』と題した記事が3月22日の産経新聞に掲載された。蓑原は「当初の予想に反してウクライナ軍が善戦しているが、筋金入りの独裁者であるプーチンには妥協も敗北もなく、人命の損失は全く厭わず、大量破壊兵器という禁じ手を用いる可能性すらある。結局この戦争の行方を決するのはアメリカである。2回の世界大戦もアメリカの参戦によって終結した。今回もバイデン大統領が重い腰を上げて世界秩序の構築に乗り出すかどうかが、パクス・アメリカーナの存続か終焉かの岐路となる。」と看破している。
誠にそのとおりだろう。ロシア軍が大量破壊兵器を使う可能性についてアメリカ政府が繰り返し言及しているが、真にそれを止める意思があるのであれば、「もしロシアが大量破壊兵器を使うようなことがあれば、アメリカと戦う羽目になる。」と言うべきなのだ。抑止力は肉を切らせて骨を断つ覚悟を固めた時に効力を発揮するからだ。パクス・アメリカーナとは、それがアメリカの役割・使命であり、その能力を保有するのはアメリカ以外には存在しないということなのだ。
アメリカの歴史学者E.ルトワックが3月19日の産経新聞に「ウクライナ侵攻を巡って予期しない発見があった。それは世界が今もG7によって率いられている現実である。」と書いている。確かに、プーチンのウクライナ侵攻に待ったをかけたのは、ゼレンスキーとウクライナ人の勇気ある行動であり、G7諸国の迅速な決断だった。
しかしながら、現時点でもロシアに進出している日本企業の多くは生産停止や営業停止に留まっていて撤退はしていない。欧州もロシアにエネルギー資源の多くを依存しているために、SWIFTからの排除対象にロシア最大の銀行であるズベルバンクもガスプロムも含めていない。時代錯誤の専制主義を歴史に封印する役割の一翼をアメリカと共に担うのであれば、日本も欧州も相応の意思決定をして行動を起こさなければならないだろう。政治家のみならず、グローバル経済のメジャープレイヤーたる企業のトップに、有事に直面した決断力と行動力が求められる。
昨年11月27日、陸海空将官OBと事務次官OBの合計8名が20回の議論を重ねて、「新たな『国家安全保障戦略』に求められるもの~激動する国際情勢に立ち向かうために~」と題した政策提言をまとめて政府に提出している。その部分が文芸春秋デジタルに公開されている(※6)。提言は「日本は盾、米国は矛という時代は終わった」という認識に立って、①専守防衛の見直し、②総合的な抑止戦略の構築、③防衛費のGDP比2%への増額を求めている。
〔※6〕https://bungeishunju.com/n/nd811cfa248d9
戦後日本はずっと「ダチョウの平和政治とNATO(No Action Talk Only)外交」を続けてきたが、ウクライナ戦争が現実に起き、台湾有事の蓋然性が高まっている現在、戦後政治の大転換が待ったなしとなった。前作「専守防衛マインドからの脱出(後編)」に書いたように、日本はウクライナ戦争を戦後史の転換点とみなして、専守防衛マインドから脱出すべきなのだ。その上で第二次世界大戦直後に作られた国際秩序の維持スキームの再構築に取り組むべきだろう。
もう一つウクライナ戦争の重大な教訓がある。それは憲法である。憲法前文はこう書いている。「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」我々日本人は現実の脅威に目を背けることなく、この文言をウクライナ戦争に重ねて考える必要がある。
真珠湾攻撃の作戦計画を作った元海軍大佐の源田実は、参議院議員だった昭和56年3月11日の国会で、「憲法前文にある、≪平和を愛する諸国民≫の中に、日本は入るのか」と質した。当時内閣法制局長官だった角田礼次郎は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼をするというわけだから、他人を信頼するわけで、日本国の国民は入らない。」と答えたという。(3月19日の産経から引用)つまり、我が国の平和憲法は「日本人を除く世界の人々は平和を愛する諸国民である」という前提の基に成り立っていることになる。正に憲法の矛盾を突いた見事な答弁だった。それから41年が経過したが、この矛盾は未だに解消されていない。
ウクライナ戦争で、ロシアがこの前提を踏みにじる侵略行為を行ったことは明白である。さらに中国も北朝鮮も「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」しえる相手では断じてない。現実の世界は「日本人は平和を愛する国民であるとしても、世界の国民がそうであるとは限らない」のだ。しかも、不幸なことに、日本は現在これら専制主義の三ヵ国と海を隔てて接している。
このことから導き出せる結論はただ一つだ。「平和憲法の前文」に書かれている理想郷の前提は、ウクライナ戦争をもってガラガラと音を立てて崩れ去ったということだ。ゼレンスキーの演説を聴いて、感激した国会議員も多かったことと思うが、政治家に刮目してもらいたいのはそんなことではない。平和憲法の前提となっている認識が「お伽噺の世界」の話だったことを認めた上で、一日も早く憲法を改定することだ。それこそが国民の安全と領土を守り抜くために、政治家の最大かつ緊急の責務であるはずだ。
「お伽噺の国の憲法」を放置したままでは、「日本は憲法の規定があるので、他国と同様の行動はとれません。」とみっともない釈明をすることにしかならない。台湾有事が起きた時に、そんな釈明が通用するとは思えない。新しい国際秩序のスキームを再構築するという崇高な役割を日本が担うためには、使命を果たすために必要な能力を持たなければならない。平和憲法がそれを妨げる最大の壁として立ち塞がることが明白である。国家の危機の真っ只中にあって不眠不休で指揮を執るゼレンスキー大統領の立場に想いを馳せるならば、できない理由もやらない言い訳もないはずである。
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