情報が溢れている現代社会を生きてゆくには、情報を使いこなす必要がある。そのために必要となる能力が「情報のリテラシー」である。またOSIという言葉がある。Open Source Investigationの略で、「公開情報をもとに物事を読み解く」という意味だ。OSIのIには、もう一つインテリジェンス(Intelligence)の意味合いがある。
現在も進行中の三つの事件を例にとって、OSIについて具体的に考えてみたい。三つの事件とは、A:知床遊覧船の事故、B:ロシアによるウクライナ侵略(以下、ウクライナ戦争)、C:コロナ・パンデミックである。
事件Aは原因と結果が単純で、テレビを見、新聞報道を読むだけで、事件の全容を理解することができる。また報道情報を単に時系列に並べるだけで、事件の推移を知ることができる。
それに対して、事件Bを読み解くことは容易ではない。ロシアによるウクライナ侵略は21世紀に起きた20世紀の戦争である。現象面だけを見ると、ロシアが一方的にウクライナに侵略戦争を仕掛けた事件だが、歴史的な背景を抜きにしては事件の真相は分からない。
ウクライナ戦争については、既に以下に記事を書いたので、参照願いたい。
「ウクライナ後の世界」、kobosikosaho.com/world/617/
「2022年世界の大乱に備えよ」、kobosikosaho.com/world/638/
では事件Cはどうだろうか。既に2年間余にわたって世界中の人々を苦しめている事件だが、また今でも連日報道されているにも関わらず、未だにこの事件の真相は明らかになっていない。代表的な疑問点を列挙すれば次のとおりである。
・疑問1:ウィルスは何処から来たのか。自然発生なのか、武漢研究所から過失によって漏出したものか、それとも人為的に使用された生物兵器だったのか。
・疑問2:なぜ世界一斉にロックダウン(日本では緊急事態宣言)を行い、経済を大きく棄損させたのだろうか。なぜ世界一斉にファイザーやモデルナのワクチン接種を国民に強制(日本ではお願いベース)してきたのだろうか。未知のウィルスに遭遇して、過剰な対応をしたということなのか、それとも何かしら、各国の政治を動かす強制力が働いた結果だったのか。
・疑問3:ウィルスは頻繁に変異を繰り返してきたが、変異を繰り返すたびに感染力は強くなる半面、毒性は弱くなってきたと言われる。脅威度からすれば、既に例年のインフルエンザ以下、普通の風邪並みになっているのに、政府はなぜ感染症の分類を「2類」に据え置いたまま、過剰な監視体制を維持しているのだろうか。等々
原因と結果が単純ではない事件、特に国際社会で起きる事件の真相を理解するためには、「情報リテラシー」が必要となる。情報リテラシーを敢えて定義すれば、次のとおりである。
・第一に、真偽やバイアスの有無を見分ける目利きを含めて、情報を読み解く能力
・第二に、複数の情報を組み合わせて事件の全体像を捉え、事件の真相を探求する能力
・第三に、自分なりの理解を、自分の言葉で語り、文章に書く能力
つまり、簡単に言えば、「読み、考え、書く」ということだ。特に書くということは、頭の中にある漠然とした考えを論理的に整理することになるから、思考力を鍛える上でとても重要であることを強調しておきたい。
OSIは基本的に「情報リテラシー」を実行する作法と考えられる。ここでOSIを行う上で要点を整理しておきたい。まず情報は大別して二つに分類できる。事実(FACT)とインテリジェンス(INTEL)である。ここでINTELはFACT情報を基に考察を加えた情報(知を働かせて加工された情報)をいう。
次に、情報を提供する媒体は三つに分類できる。新聞、書籍(雑誌を含む)、そしてインターネットである。この内、新聞は毎日定期便として届くのと、事件に関しては基本的にFACT情報中心であることから、いつどこでどのような事件が起きたかを知るインデックス情報として使える。提供する情報の特性によって三つの媒体を整理すると、概ね次のようになる。
・新聞:ほぼタイムリー(昨日起きた事件)でFACT情報中心
・書籍:専門家によって体系的に整理されたINTEL情報で、タイムリー性はない。
・ネット:タイムリー/非タイムリー混在、真実/フェイク混在で、性格上「書き手の意見」という色合いが強い。書き手はさまざまであるため情報の切り口が多彩で、あらゆる情報の入手が可能だが、読み手の情報リテラシー能力が問われる。
OSIを行うためには、三つの情報ソースを効果的に組み合わせる必要がある。OSIの具体的な手順をブレイクダウンしてみると、たとえば次のようになるだろう。
①新聞を毎日読む。昨日国内及び世界でどのような事件が起きたか、或いは既に注目している事件についてはどういう進展があったか、FACT情報を取得することができる。情報を自在に切り取ることができるため、電子版での購読がお勧めである。
②注目しているテーマについて、新たに注目に値する記事を切り取る。新聞から切り取った記事を例えばパワーポイントに貼り付けて、年月日情報を書いて保存すれば、「出来事のインデックス」ファイルが出来上がる。インターネットから情報を切りとるツールには、たとえば「Clipper to OneNote」がある。切り出した情報は「OneNote」フォルダに収録されるので、そこからコピペすれば情報の収録し編集は容易だ。
③OSIの作業はここから始まる。切り取った記事に対して、注目する記述にマークアップし、気付いた点、疑問点、補足事項などを余白に付加して保存する。情報は読んだだけでは頭に入らない。集めた情報をもとに自分の頭で考え、そして気付いたことを書くことが重要だ。新たな情報に接してひらめいた気付きは、その場でメモにしなければすぐに忘れてしまう。
④注目するテーマについて理解を深めるためには、体系的な知識について勉強する必要が生じる。そのためには、専門家が書いたできるだけ最新の書籍を買ってきて読むことだ。最新の動向を体系的に整理している書籍がお勧めである。ハードカバーの本は2~3千円するが、専門家の知見を丸ごと手に入れることができる価値は大きい。
⑤注目しているテーマについて情報が集まってくると、それを関係づけて整理し、全体像を描くことが重要だ。一つの情報を一つのピースと考えれば、この作業はジグソーパズルと似ている。必要な情報(ピース)が揃ってくると、全体像が垣間見えてくる。ここで情報の相関関係や因果関係を図解するツールとして、「Microsoft Whiteboard」がお勧めである。会議室の電子白板に相当するPC版のアプリである。
⑥さらに、疑問点を明らかにするためには補足情報(ミッシングピース)を調査する必要が生じる。これはインターネットを駆使して補完すればいい。情報リテラシーを駆使して、「世界の図書館」であるインターネットから必要な情報を見つけ出す。和訳情報では元のニュアンスが分からない場合もある。その時は原典をダウンロードして読むことをお勧めする。最近では「英辞郎」などの無料辞書に加えて、AIの翻訳機能が使えるので巧く活用すればいい。
⑦さて、OSIの真骨頂は「So What?」を考えることである。つまり、この事件をどう理解すればいいのか?この事件は何故起きたのか?歴史の流れの中で、どういう因果関係で起きた事件なのか?国際社会における他の事件との相関関係はどうなっているのか。その上で、事件の真相をどう理解すべきだろうか?今後どう進行してゆくのだろうか?等々。
⑧まとめると、他の事件や情報との相関関係、歴史との因果関係を整理した上で全体像と真相について考察する。「So What?」を考えることは、「読み、考え、書く」の「考える」に相当する。「So What?」を考えることで、自分の視点を持つことができる。
⑨最後に、考察の結果見えてきた全体像と真相について、自分の言葉で活字化する。書くことによって、理解を論理的に整理することができる。
ウクライナ戦争にしてもコロナ・パンデミックにしても、情報を読むだけでは真相は分からない。何故なら真相部分は隠れているからである。ウクライナ戦争では、背景にソヴィエト連邦崩壊後の歴史があり、その歴史には英米対ロシアのインテリジェンス機関による暗闘がある。また、コロナ・パンデミックでは、ウィルス研究やワクチン開発に関わる大きな利権集団の動きがある。世界的な事件の背後には、それを動かしている力学が働いているとみるべきだ。その力学を不問にしたままでは真相は分からないのである。
現代社会は「複雑系」の社会と言われる。複雑系とは、一言で言えば、原因と結果の関係が単純ではなく、複数の要因が相互に影響を及ぼしながら絡み合っている状態をいう。そういう意味では現代社会で起きる事件は大なり小なり複雑系である。複雑系の社会を生きてゆく以上、その事件は何故起きたのか、背後に働いている力学は何かについて理解する能力を持たなければ、「ではどう対処すべきか」の答えを導き出すことができないだろう。OSIが求められる理由がここにある。